(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

 

母と久美ちゃんの「気持ちのすれ違い」

最初に、同席していた先生がお母さんの遺言書の内容を簡単に説明します。それは、相続する土地の広さに多少の差はあるものの、資産価値としてはほぼ同等となるように分けたというものでした。

 

「どうだか」

 

久美ちゃんが不満そうな声を漏らしたのをきっかけに先生が言います。

 

「こんなチャンスはそうそうないですから、お互い思うところがあれば、全部話しておいたほうがすっきりしますよ」

 

そこから久美ちゃんは母に対する不平不満をぶちまけました。

 

「お母さんは昔から私のことが嫌いだったからね」から始まり、過去にあんなことがあった、こんなことがあったと、久美ちゃんは母を責めたのです。そこには何度も「私だけ」という言葉が出てきました。

 

「私だけが……された」「私だけが……してもらえなかった」

 

それは、逆の立場の私や智ちゃんから見れば、同じことが言えるようなことばかりで、私たちも久美ちゃんに反論し始め、家族会議はグチャグチャの状態になりました。

 

気がつけば、四人それぞれが涙を流しながら話している有り様です。

 

いろいろ話すうち、母と久美ちゃんには大きな気持ちのすれ違いがあることがわかりました。久美ちゃんの中にあるわだかまりは、「お母さんから見捨てられた」と思っていることにあるようでした。自分は諦められた存在だから放っておかれたのだと……。

 

でも、母に言わせれば、久美ちゃんは型にはめられるのが嫌いな子だから、のびのびと育てようと思った結果だったというのです。

 

「どこの母親が可愛い娘を見捨てたりするもんですか」

 

母のその言葉に、久美ちゃんは思い切り鼻をすすりました。

 

「こんなこと、五〇を前にして話し合うなんてね……」

 

みんなのわだかまりが解けたところで、母の遺言の内容をもう一度聞きました。今度はみんな納得です。

 

「相続の話はここまでです」という先生の言葉に久美ちゃんが大きく息をつきました。

 

「お母さんが死んだ後の話をするのはもうたくさん」

 

私は、これも久美ちゃんの本当の思いだったのだと知りました。誰よりも寂しがり屋で、甘えん坊の久美ちゃんは、母が死んだ後のことを考えることがつらかったのです。

 

「ここからは、これからのお母さんの話をしようよ」

 

久美ちゃんの提案で、これから先、私たち三姉妹で母をどのように支えていくかの話し合いをしました。母にこれからしたいことを聞き、それを誰がどのように叶えていくかを話し合ったのです。それはとても楽しく、幸せな時間でした。

 

「まだまだ思い出をたくさん作ろうね」

 

そう約束した私たち四人は、来月、温泉に行って女子会を開く予定でいます。

 

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

もう会えないとわかっていたなら

もう会えないとわかっていたなら

家族の笑顔を支える会

扶桑社

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