大手書店、教科書の販売数「前年比5.1倍」達成の理由【DX成功事例】

大手書店、教科書の販売数「前年比5.1倍」達成の理由【DX成功事例】
(写真はイメージです/PIXTA)

DX推進に失敗する企業には、大きくわけて3つの特徴があります。特徴を押さえることが、DX推進を成功に導く手がかりとなるそうです。本記事では、教科書の販売数「前年比5.1倍」を達成した大手書店のDX推進事例を中心にみていきます。

 

課題へのアプローチ方法

「Excelで個別最適化された業務」への対応は、A社に限らず多くの企業にある課題のひとつです。私(A社の業務システム担当者)が個人的に「現状肯定型DX」と呼んでいるのですが、以下の3つのコンセプトのもとでプロジェクトを進めました(図表2)。

 

[図表2]解決のためのコンセプト:現状肯定型DX


コンセプト1.

個々の営業や売店スタッフはこれまでどおり個別最適化されたExcelシートを使って業務が行えるようにする

 

プロジェクトの最大の特徴で、一般的なシステム化とは真逆のアプローチですが、現行業務を分析・整理・再構成するのではなく、ある意味ブラックボックスのままシステム内に組み入れてしまうことで、担当者は慣れ親しんだExcelシートをそのまま使うことができ、販売スタイル転換に伴う「新しいことを覚える必要がある、いままでできたことができなくなる」といった負担感や抵抗感を極力減らすことを目指しました。

 

コンセプト2.

これまでの業務に30分程度の追加作業を行うだけで、だれでも教科書販売サイトを公開することができるようにする

 

販売スタイルの転換が既存業務の大幅な負担増を招いたり、新たなスキルを持った人材の投入が必要だったりでは本末転倒になってしまうので、既存業務の延長線上で、キャッシュレスや配送対応が可能な教科書販売サイトを公開、運営できるようなシステムを目指しました。

 

コンセプト3.

段階的な業務切り替えを行い、3年程度の期間の中で新しい販売スタイルへ移行する

 

販売スタイルの転換は、学校側のニーズの強弱、現行の販売スタイル、担当者のリテラシーなどに、その進捗が大きく影響されるため、適当な移行期間を取り、可能な案件から段階的に転換をはかることにしました。またシステム化も一気に完成形を目指すのではなく、現場の利用状況をみながら段階的に改善対応を行えるよう予算化や体制整備を行いました。

 

コンセプト1.“でIT専門企業に外注したタスク

アプリケーション内にExcelを内包(実際にはExcelライクなUIを提供するライブラリ)し、ユーザーは馴染みのあるExcelシートを使った従来の作業を行います。アプリケーションはExcelシートでの作業には関与せず(ブラックボックス)、作業結果から必要な情報だけを利用する構成をとっています。

 

ExcelライクなUIは特に目新しいものではありませんが、大きな特徴はUIの入力結果からデータだけを取り出してDBへ格納する一般的な活用方法ではなく、Excelシート全体をまるごとDBへ格納している点です。そうすることでユーザーがチェック用に設定した網掛けや文字色などのセル属性、顧客や仕入れ先との事務連絡用に追加した新しい列、集計用に埋め込んだ式や絞り込みのためのフィルターなどすべてのUI操作が保存、再生可能になり、個別最適化されたExcel作業が行えます。

 

このコンセプトを実用的なものにするための最大の課題はアプリケーション性能の確保です。Excelシート全体のデータ容量は大きなもので十数MBになります。そこで端末――サーバ間の通信負荷の低減方法や、Excelシート内から必要データを効率よく抽出する処理方式などを構想段階から外注した企業に相談しながら進めてきました。

 

コロナ禍が影響した本プロジェクト

2017年から現場導入を開始しましたが、実は2019年まではプロジェクトの「コンセプト3.段階的な業務切り替え」が計画どおりに進みませんでした。販売スタイル転換のメリットや、これまでと同じ業務に30分の追加作業を行うだけでよい点を説明しながら、ニーズのある案件には転換を促してきたのですが、新しい取り組みに対するお客様を含めた現場担当者の漠然とした不安感がなかなか払拭できず、思ったように切り替えが進みませんでした。

 

ところが2020年春、一連のコロナ禍対応で状況が一変しました。3月末に文科省の通達があり、すべての大学で4月以降の大学構内への学生の立ち入りが禁止され、学内での教科書販売ができなくなってしまったのです。各大学からは次々にオンライン販売&配送型への切り替え要請があり、急なものでは1週間後に販売開始したいといった大学もありました。

 

さすがにすべての要請に応えるのは難しいのではと考えたのですが、ここでプロジェクトの「コンセプト1.現状のExcel業務のまま、コンセプト2.30分の追加作業で対応可能」と、「学生のみなさんになんとか教科書を届けたい」という現場担当の思いが相乗効果を発揮し、ほぼすべての案件を要請どおりにオンライン販売&配送型へ切り替えることができました。販売スタイル転換(DX)が一気に進んだわけです。結果として、2020年春の販売数は、2019年比で5.1倍(ピーク時比較約2.7倍)と大幅に拡大しました。

 

ポストコロナ禍も見据えた今後の取り組み

2020年は転換が急激に進んだため、運用面では多くの課題が未解決のまま残りました。まずはこれらの課題を解決し販売スタイル転換(DX)を現場に定着させることが重要と考え、2021年から取り組んでいます。また当初個別最適なExcelシートからスタートした業務ですが、徐々に案件ごとの個別性が淘汰され、管理項目や作業の共通項が明らかになってきましたので業務標準化にも着手しています。

 

さらに今後は、教科書以外の商品やサービスについても学生向けにオンラインで提供していく仕組みづくりや、大学での新しい講義のあり方も見据えながら電子教科書/教材の販売プラットフォームを強化する取り組み(進化型DX)を推進してゆきたいと考えています。

 

 

河田 京三

HOUSEI株式会社

DX推進室室長

 

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