
「親に数年会っていない」「家族との仲が悪い」──こうした状態が、「成年後見」を招く要因となります。また、多くの人にとって「相続」と「認知症」は人生後半における大きな課題です。もし、この二つの課題が同時期に重なってしまうと──資産が凍結されて「自分のお金が使えない」という最悪の事態を招いてしまいます。石川秀樹氏の著書『家族信託はこう使え 認知症と相続 長寿社会の難問解決 』(ミーツ出版)より、家族信託のプロトタイプから、相続についてわかりやすく書かれた箇所を一部抜粋してお届けします。
長男Tの妻Rが別件で乙を訪ねてきたとき、その話題になりました。「私も足がこんなだから、銀行に行くのは苦痛なのよ」と乙がいいます。「東京だと“凍結”の話はよく聞きますね。『名義』はほとんどがお父さんですか? それではお父さんに何かあると困っちゃいますね」とR。
その日は雑談で終わりましたが、家に戻ってTに話すと、夫は珍しく真剣な顔になりました。「俺も定年が近いし、予想もしないことでおやじたちの生活が破綻したら困るよ。AとBにも相談してみるか」。
幸い、T、R夫婦と姉弟の仲は良好なので、次の連休にAとBが実家に集まりました。3人一致したのは「確かにほっとくのはこわいね」でした。
A「それにしてもうちの(両親の)財産はどれくらいなのかしら」
T「聞いたことないなぁ。家まで含めれば1億円くらいはありそうだけど」。
話を始めても、子たちは肝心なことがまるでわかっていません。
ふつう、家族はそんなものですね。細かい経緯は省略して、結論的には「家族信託をおやじに説得しよう」と決まりました。父の甲は唐突な話に驚いた様子でしたが、元来、お金のことに無頓着な性格。サラリーマン時代は妻に小遣いを渡され、今もって甲の金銭感覚はそこにとどまっているので、乙が「それなら安心ね」というと、あっさり家族信託契約を結ぶことを了承しました。
甲「信託すると相続税が少しは節約になるのかね?」
Tたちは、『やはり相続税が発生するくらい財産があるんだ』と妙に納得したのですが……。
遺産1億2,000万円。石上家の相続税はいくら?
本筋と少し外れますが相続税について書いておきます。下が相続税の速算表です。遺産1億円、さて相続税はいくらか?

ほとんどの人が[1億2,000万円×0.4-1,700万円=3,100万円]と答えます。全然違う。相続税はそんなに高くはなりません。もっと合理的にできているんです。相続人は誰で人数は何人か、そこまで考えて作られています。配偶者は税額が軽減されます。同居親族には小規模宅地の特例。それに、生命保険には相続人1人当たり500万円の非課税枠があります。