
田中角栄は『日本列島改造論』で日本の乱開発を志向したわけではない。都市と地方、富裕層と貧困層、その格差を是正しようとした。それが列島改造の本質だった。日本経済新聞記者の前野雅弥氏が著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)で解説します。
「田中角栄がいま、首相だったら」
■大衆の視点での国興しの処方箋
静まりかえった休日の午後。ふと耳をすますと、よく三味線の音が聞こえた。
神楽坂にいた頃。角栄の目白の邸宅につながる「通称・角栄道路」の近くに住んでいた。もう30年も前のことだ。
三味線の音はたどたどしく、つっかえ、またつっかえ……。きっと新米の芸妓さんが練習をしているのだろう。それはいつも先輩記者が帰った誰もいない記者クラブで、明け方まで何度も何度も記事の書き直しをしていた自分の姿とピタリ重なった。「がんばれ」「がんばれ」まるで浅春、鴬の子供が本格的な春を前に、鳴き方を練習しているような三味線だった。
今、日本は春を待つ。しかし、決して穏やかな春ではない。荒れ狂う嵐の春だ。新型コロナウイルスというパンデミックの後は、ウクライナを起点とする戦争、そしてその後に、首都直下型地震、スタグフレーションなどの災禍が日本を待ち構えていることは間違いない。迫り来る動乱をどう切り抜けるのか。
「田中角栄がいま、首相だったら」
本連載は難局を前にして、角栄のような強力な資質を持ったカリスマを求めたリーダー待望論ではない。一人のカリスマに次の時代の幕開けを委ねることがいかに危険で悲惨な結果を招くのか――。それは歴史が証明するところだ。
連載で試みようとしたのは、大衆の視点での国興しの処方箋づくりだ。一握りの富裕層や才能に恵まれたエリートたちの新しい資本主義、「我よし」の国造りではない。中庸の人々が多々平凡に幸せな日々を送るための国造りを考えることを目的とした。
そのために「田中角栄」という戦後ヒエラルキーの頂点から逸脱した大衆政治家にご登場を願ったわけである。
この連載を執筆するにあたり、田中角栄に通産相(現・経済産業相)時代、首相時代の二度にわたって秘書官として仕えた元通産官僚の小長啓一さんに1回1〜2時間、のべ10回を超える取材に応じていただいた。
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