「俺は残業するんだから、お前も定時で帰るな」…日本の労働時間が長い根本要因【歴史のプロが解説】

「俺は残業するんだから、お前も定時で帰るな」…日本の労働時間が長い根本要因【歴史のプロが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「働き方改革」という言葉も浸透しつつあるなかで、私たちの「働き方」は今後どのように変わっていくのでしょうか。世界史の面白いネタを収集するブログやYouTubeチャンネルを運営し、歴史ライターとして活動する尾登雄平氏が、著書『激動のビジネストレンドを俯瞰する 「働き方改革」の人類史』から、世界各国が歩んできた労働の歴史と、日本における働き方の未来について解説します。

 

日本人が残業をする理由

なぜ、日本企業の労働時間は長いのでしょうか。さまざまな観点での分析がありますが、ここでは日本人のメンタリティと組織構造から検討したいと思います。

 

日本人は伝統的に「滅私奉公」、私よりも公を優先する意識が強くあります。「同僚に負担をかけるのが申し訳ない」という理由で休暇をとらないメンタリティは、強い公的意識に基づいています。そしてお互いに「俺が休んでいないんだから、お前も休むなよ」「俺は残業するんだから、お前も定時で帰るなよ」と、公的意識を強要し合う。そのため、休みをとったり定時で帰ったりすることが悪であるかのような感覚に陥っていきます。

 

一方で日本型組織では、出世すると自らの権威を高め、「公」における「私」の度合いを増大させることができます。部下を趣味などの私的な活動に強制的に動員させる、業務割り振りを自分の一存で決めるなど。朝遅い時間に出勤することを「重役出勤」と言ったりしますが、偉くなるとルールから逸脱する行為が集団内で許容されるわけです。

 

このようなあり方は、曲りなりにも四民平等となった明治期を通じて形成されました。福沢諭吉の『学問のすゝめ』などのベストセラーでは立身出世が勧められ、才覚でのし上がることが社会的にも容認されていきます。明治後期になると学歴や家柄などによる社会身分の固定化が進んではいくものの、明治政府は立身出世を公的に認めることで下層民のエネルギーを反体制に向かわせることなく逆に利用し、近代化の推進力へと変えました。

 

しかし、現在は昔のように出世してもわがままが許されなくなってきています。出世競争に勝つことで手に入れられるインセンティブの一つが消滅したので、労働者が私を犠牲にして長時間労働する理由はもはや失われています。しかし、「ヒラ社員のうちは文句を言わず残業しろ」といった風潮がいまだに残っている企業は少なくないのではないでしょうか。

 

このように、働き方は伝統的なメンタリティや組織構造に大きく影響されます。労働時間への意識、組織構造や雇用形態を比較しながら、どのように「働き方」が発展してきたのか、歴史を紐解きながら見ていくと面白いかもしれません。

 

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