不動産の価値は、決して「築年数」などの表面的なスペックでは決まりません。にもかかわらず、日本では長らく、建物は「新築がベストで中古は価値が落ちる」という杓子定規な考え方がとられてきました。しかし、そのような考え方は、実は、世界のスタンダードから外れているばかりでなく、不動産取引を停滞させ、売主と買主の利益を損なうものです。今こそ、価値観の根本的な転換が求められています。

建物の価値を高めるためにこそインスペクションを

ただし建物を長生きさせるにはメンテナンスは欠かせません。メンテナンスを行わないから、短命で終わる建物があとを絶たないのです。そしてなぜメンテナンスを行わない人が多いかというと、先ほどの議論に戻りますが、建物価値が担保評価に組み込まれないからです。

 

早晩、欧米のように建物価値が担保評価に組み入れられることが予想されます。実際にそのような動きは出ており、住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」には2022年4月より「維持保全型」が登場、安心して長く住めると認定された住宅は借入金利が引き下げられる特典を設けています。

 

こういった新しい仕組みは公的機関から民間機関へと広がっていく向きがあり、今後は類似の住宅ローンがさまざまな金融機関で実施されていくと予想されます。欧米のように健康な家ほど高く評価され、より安価で安心して住める時代が日本にも到来するのです。

 

建物の状態が担保評価につながるとなると、不動産買主の意識も変わっていき、価値が保証されている中古住宅を求める人が増えていくことになります。現在住宅を所有している人は将来の売却に備えてメンテナンスを心掛け、マンションであれば管理組合の機能がより充実します。長生きで健康体の「中年」不動産が増えていき、取引回数も勢いづいていくものと予想されます。

 

とにもかくにも、インスペクションで建物の本当の価値が可視化されるのであれば、販売価格に直結することは間違いありません。ある中古物件が相場価格の3,000万円で販売されていたとして、インスペクションを行ったところしばらくメンテナンスの必要がなくなおかつ長く住めると診断されれば、相場以上の価値がありお買い得だと判断できます。

 

逆に、長く住むには買った直後に300万円ほどの修繕費が見込まれると診断されれば、購入を見送るとか、値下げの余地ありという戦略を立てられるわけです。このように納得いく価格に着地させるメリットがあるので、インスペクションは買い手のニーズを満たすための一手法としても、今後ますます一般化されていくと思います。

 

 

大西 倫加
さくら事務所 代表取締役社長
らくだ不動産株式会社 代表取締役社長
だいち災害リスク研究所 副所長

 

長嶋 修
さくら事務所 会長
らくだ不動産株式会社 会長

悩める売主を救う 不動産エージェントという選択

悩める売主を救う 不動産エージェントという選択

大西 倫加,長嶋 修

幻冬舎メディアコンサルティング

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