(※写真はイメージです/PIXTA)

台湾有事と朝鮮半島有事が同時に起きるシナリオは日米韓にとって最悪です。とくに米国にとって、台湾有事に集中したいときに発生する朝鮮半島有事への対応はきわめて難しい。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

EMP兵器1発で北米全体に大きな被害

そもそもEMPとは何だろうか。

 

・核兵器は、広島や長崎を破壊した原爆のような原始的な第一世代のものでさえ、高周波(E1 EMP)、中周波(E2 EMP)、低周波(E3 EMP)、3種の電磁パルスを生成するガンマ線やベータ線、アルファ線などを発生する。

 

・EMPは、いわば「スーパー雷」で、広域にわたる電子機器に対して、雷よりもはるかに強力な衝撃を与える。核兵器1発で、北米規模の標的にEMP攻撃をおこなう可能性がある。

 

・高周波EMPは、雷よりもはるかに速くはるかに強力であり、避雷用に特別に設計されたデバイスでは止めることができず、自動車、飛行機、グリッド、通信、およびそのほかすべての重要なインフラストラクチャーの稼働に必要な小型電子機器や制御システムを損傷または破壊する可能性がある。

 

・中周波EMPは高速(持続時間は数ミリ秒)で、雷と同じくらい強力である。避雷設備で停止できるが、多くの商業企業や住宅では避雷設備が不足している。

 

・低周波EMPは雷よりもはるかに遅い(数秒間続く)が、はるかに多くのエネルギーをもち、数十万ボルトを運ぶように設計された変圧器を溶かすことができる。太陽からの磁気嵐よりも強力だ。

 

・EMPは三つの「波」で伝播するため、それらの損傷効果は大きくなる。高周波EMPは、中周波および低周波EMPによる広範囲で深い損傷を引き起こすきっかけとなる。

 

以上がEMPの説明だが、EMP攻撃は、様々な高度で起爆することにより、影響範囲と電磁波の強度を調整できる。爆発高度が低く地表に近づくほどEMPの威力は大きくなり、爆発高度が高いほど影響範囲が広くなる。

 

例えば、高度30㎞での核爆発により、地上で半径約600㎞のEMP影響圏が生成される。高度400㎞で爆発すると、EMP影響圏の半径は約2200㎞になり、EMP兵器1発で、北米規模の標的に大きな被害を与えることが可能だ。

 

EMP兵器は、衛星、長距離・中距離ミサイル、貨物船から発射された短距離ミサイル、巡航ミサイルや対艦ミサイル、軍用ジェット機や商用ジェット旅客機、または気象風船などの様々な手段により運搬できる。

 

例えば北朝鮮は、日本上空で核爆弾を爆発させることができる。日本と日本に隣接する台湾は両方とも、EMPに脆弱な電子機器に大きく依存しているから、その被害は甚大になるだろう。

 

また中国はEMP兵器を使用して台湾を攻撃し、台湾軍を電子機器が使用できない状況にし、麻痺させてしまうことが可能だ。そして、台湾を中国の攻撃から守るために航行する米国の空母打撃群も無力にすることができる。

 

米国と中国またはロシアとの大規模な紛争では、その最初の1発は、米国の核の指揮統制システムと兵器を破壊するために設計されたEMP兵器の宇宙での爆発である可能性がある。

 

〈ロシアや北朝鮮が所有する核EMP弾頭は、米国の核兵器に関連した資産を危険に晒し、米国の核抑止力の存続を脅かす可能性がある。〉とプライ博士の報告書は記している。

 

次ページ台湾有事と朝鮮半島有事が同時勃発の可能性

本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

日本はすでに戦時下にある

渡部 悦和

ワニブックス

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