様々な場面で必要な「コンフリクトマネジメント」
実は医療現場に必須のマネジメントがもうひとつあります。いわゆる医療紛争などの対応を含む「コンフリクトマネジメント」と呼ばれるものです。
「コンフリクト」とは紛争、対立など、表に噴出している怒りだけでなく、胸の中にある不安、不満、葛藤などの感情も含みます。苦情・クレームは医療現場だけでなく、様々なところで相対することがあるので「コンフリクトマネジメント」の理論は往々にして役立ちます。
「傾聴する」「そのままの相手を認める」「一歩引いて全体を見渡す」「その言葉の奥にある本当の想いを知る」といった対話の過程を経て、当初求めていたものとはまったく異なる問題解決方法や、納得の結果を得るにいたることもあります。冷静に受け止める、周囲や自分自身を客観的に見渡す力が必要です。
このマネジメントは「医療事故」対応だけでなく、不安を抱える患者さんへの日常の対応にも役立ちます。医療は命に直結する、不安などの感情を伴いやすいといった特殊性があります。感情が表出しやすい場面が多くなりがちであり、その対応を学んでおくことは重要です。
患者さんやご家族にどのように対応していくかで、信頼関係が損なわれてしまうこともあります。また、医療者側も、「そういった対応に慣れていない」「どう対応してよいかわからない」「毎日一生懸命対応して、どんどん自分が疲れてしまう」ということも少なくありません。
トラブルメーカー、モンスターペイシェントと言いたくなる患者さんも時にはいるのは確かです。そういった方の対応に医療者は疲弊します。こうした場面では、組織として毅然と対応する力も求められるのです。
「5つの患者力」で自分の身を守ろう
大きな事故対応をたくさん行ってきて、様々なことが日常の小さな出来事からつながっているということを感じます。事故調査での大きな問題に対する「医療安全管理」の「事実をきちんと確認して評価し、再発防止につなげる」という基本は、大きな事故でなくとも応用できます。
目的は、患者さんが安心して一番安全な体制で治療を受けられることですが、そのためには医療者が安心・安全であることも必要です。
医療者が間違いのないように、より良い医療を提供するように努めるのはもちろんですが、良好な医療者と患者の関係をつくるためには両者の力が必要です。
「5つの患者力」(備える力、客観視する力、対話する力、自己責任力、生きる力・死ぬ力)を持つことが、医療をよりよく利用することにつながります。
永井 弥生
オフィス風の道 代表
皮膚科医・産業医・医療コンフリクトマネージャー・医学博士