(※写真はイメージです/PIXTA)

「宇宙強国」を目標に掲げ、推進している中国に対して、アメリカも「宇宙軍を創設する。アメリカは宇宙を支配せねばならない」(元トランプ大統領)と引く気配はありません。米中の宇宙の覇権争いはどうなるのでしょうか。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

宇宙の米中覇権争いは長く継続する

また、同書によると、宇宙軍の創設は以下のような手順で実施される。

 

・議会の承認が得られれば、「米宇宙軍」が創設され、宇宙部隊を組織し、訓練し、装備する責任を負う。米宇宙軍は、宇宙ドクトリン、能力(部隊や装備品)、人員を統合して、国防省の宇宙戦闘能力を構築、維持、強化する。

 

・宇宙軍の立ち上げは、2020年度から2024年度までの5年間で段階的におこなわれる予定であり、最初に2019年8月に宇宙コマンド(US Space Command)が設置される。宇宙コマンドは287人体制でスタートし、人工衛星の運用、宇宙空間の監視、ミサイル警戒などの任務を担当する。

 

・2021年度と2022年度に、他軍種からの任務移転がおこなわれる。既存の宇宙関連部隊、兵士宿舎、兵力、予算は宇宙軍に移転される。また、関連する宇宙運用組織、装備品等の調達、訓練、教育等も含まれる。

 

・2023年度と2024年度には宇宙軍の増強が逐次おこなわれる。

 

・任務が宇宙軍に移管されると、既存の人員と予算の権限も、既存の軍種から宇宙軍に移管される。移管終了までに、1万5000人の要員とともに、宇宙部隊の年間予算の95%以上が、既存の国防省予算枠から宇宙軍に移転される。

 

以上の記述を読むと米宇宙軍が〈国防省の宇宙戦闘能力を構築、維持、強化する〉軍であることがわかる。宇宙における様々な攻撃手段の開発により、宇宙における米中の覇権争いは緊迫したものになっている。その意味でも、米宇宙軍の誕生は必要だったと思う。

 

■米国の宇宙開発

 

米国は、宇宙分野における大きな組織と優れた技術的専門知識、活気に満ちた宇宙ビジネス、宇宙に関するリーダーシップ、多くの国際的なパートナーシップの長い歴史をもっている。これらは、宇宙における米国の中国に対する優位性を示している。実際、中国が宇宙でおこなおうとしていることの多く(例えば有人宇宙船による月面着陸)は、米国がすでに達成したことだ。

 

しかし、宇宙における世界のリーダーとしての地位を米国から奪おうとする中国の国家ぐるみの取り組みは、米国がこれまで確立してきた多くの成果を損なう可能性がある。宇宙開発分野における中国の顕著な進歩は、米国がここ6年から8年間、宇宙への戦略的関心を失っていたこともあり、中国が米国との差を狭める結果になっている。

 

現在、米国の宇宙商業部門は、主要な技術でリーダーシップを発揮するという中国の計画によって打撃を受けるリスクがある。例えば、米国は2025年に国際宇宙ステーションへの支援を終了する予定だが、中国政府は2025年以降において中国の宇宙ステーションを他国に提供し、国際協力の場として活用しようとしている。

 

2017年の米国家安全保障戦略は、「宇宙の民主化」を提言した。これは、政府のリーダーシップではなく、民間企業などの主導による低コストのシステムを使った宇宙ビジネスへの参入である。例えば、電気自動車企業テスラの創立者イーロン・マスクが立ち上げた「スペースⅩ(SpaceX)」などの民間企業の参入は顕著な成功をおさめ、米国の宇宙開発に新たな活力を提供している。

 

一方で、宇宙への民間企業などの参入は、宇宙をますます混雑状態にし、彼らが何者かの攻撃を受ける可能性が増大している。宇宙がもはや米国が過去のような優位性を確保できる絶対的な領域ではないため、「宇宙の民主化」は、米国の安全保障上のリスクを増大させる可能性がある。

 

米国の経済的利益を確保するために宇宙へのアクセスを拡大すること、とくに、シスルーナ(地球と月軌道の間の)領域とその先の空間は、米国の将来の安全保障と経済にとって重要な役割を果たす可能性がある。宇宙に帰属する経済的潜在力を活用する技術が成熟した場合、中国は新しい経済分野において米国と覇権争いをすることになる。宇宙における米中の覇権争いは長く継続する可能性が高い。

 

渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監

 


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本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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渡部 悦和

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