(画像はイメージです/PIXTA)

賃貸物件のオーナーには、入居者の募集や建物の修繕といった管理業務が発生します。その中でも特にトラブルが生じやすいのが、賃借人との明渡し・立退き交渉です。たとえオーナー側に老朽化による建て替えなどの理由があったとしても、立ち退きを求められる賃借人にとっては、意図せず転居せねばならなくなるため、不満を感じて拒否するケースも少なくありません。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、賃借人の明渡し請求の拒否について鈴木崇裕弁護士に解説していただきました。

正当事由と立退料の関係

「立退料」という言葉を聞いたことがある方も多いと思われます。弁護士をしていても、バブル期や大規模な再開発に伴って莫大な「立退料」を得たという武勇伝のごときウワサを時々耳にします。

 

実際、交渉や民事訴訟に際して極めて高額の「立退料」が支払われる例はあるのですが、そのような事例の多くは「正当事由」がなく民事訴訟によっても退去を実現できない見込みであるとか、再開発のスケジュールの都合で民事訴訟をしている時間がない等の事情で、賃借人に納得してもらうだけの金額を、いわば賃借人の言い値で支払わざるを得ない場合がほとんどです。

 

他方で、「正当事由」が十分に認められる事案や、相当程度認められる事案においては、民事訴訟で支払いを命じられる「立退料」がゼロとか、比較的低額なものもあります。民事訴訟上の「立退料」の扱いは、正当事由の補完要素に過ぎないためです。

 

賃貸物件の立退きを計画する際には、賃借人に退去の可能性があるのか、老朽化等の正当事由があるのか、民事訴訟を提起する時間的な余裕があるのかなど、様々な観点から状況を分析すること必要不可欠です。

賃料は賃料増額(減額)請求により変更できる可能性も

契約条件は相手方の了解がなければ基本的には変更できませんが、実は賃料については一方的に増額(減額)することができる場合があります。

 

借地借家法に「賃料増額(減額)請求」という制度があり、経済情勢の変動等により賃料が不相当となったときに限って、一方的に賃料を変更できることになっています。この権利を行使することにより、相場と比較して安すぎる賃料を、相場に多少近づけることができる可能性があります。

 

もっとも、賃料増額請求権を行使しても相場に近づけることができるに留まりますし、法律の定める要件を満たさなければ行使できないこともあり得ます。また、賃借人が応じない時は調停や訴訟で解決するほかないため、費用対効果の観点から、実現困難な場合も多くあると思われます。

 

特に、居住用建物のような比較的低額の賃料で運用されている物件については、賃料増額請求権を行使することは、必ずしも有効な対策とはいえないかもしれません。

定期借家契約を活用して将来に備える

以上のように、賃貸人の立場からの立退き交渉は非常に難しく、多額の費用がかかります。このような問題をあらかじめ回避する方法として、定期借家契約という契約類型があります(借地借家法第38条)。定期借家契約とは、「法定更新」の適用がなく、契約期間が満了したら必ず終了する契約のことです(「法定更新」の適用がある契約を「普通借家契約」と呼びます)。

 

もちろん、契約期間を当初から長期間に設定したり、契約期間満了後に新たな定期借家契約を再契約することにより、結果的に長期間にわたる賃貸借契約を実現することは可能です。

 

重要なポイントは、契約期間が満了したら必ず契約が終了するので、再契約するかどうかは賃貸人と賃借人の合意ができるかどうかによる(賃借人の意向だけで再契約することはできない)ということです。この契約類型であれば、賃借人との間で解約の合意を得るために高額の立退料を支払う必要はありません。

 

賃借人からすると、「法定更新」の適用がないのは不安かもしれませんが、当初から長期間の契約を締結するとか、定期借家契約の物件には入居しないようにするなどの方法で、不安を解消することが可能です。

 

賃貸人としては、当初から定期借家契約を締結するとか、普通借家契約の物件を定期借家契約に切り替えるなどして、将来の立退きに備えることができます。もちろん、契約の切替えには賃借人の承諾が必要ですから、その時に立退料に相当する費用の支出は必要になるかもしれませんが、一旦切替えに成功すれば、いざ現実に退去が必要となった時にはそれほど時間をかけることなく計画的に実現することができるはずです。

 

ただし、定期借家契約は手続が若干複雑なことと、平成12年3月1日よりも前に契約した居住用建物の賃貸借契約について定期借家契約への切替えはできないことになっているので、注意が必要です。
 

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