【中小企業の事業承継】「家族の相続税負担を少なくしたい…」社長のニーズにどう応えるか? (※写真はイメージです/PIXTA)

商品の質にこだわり、お客様によいものを届けたいという思いで会社を経営してきた菓子製造会社社長。社会貢献への気概からしっかり法人税も払って経営を続けてきましたが、75歳となったのを区切りに、来年は第一線から退き、次世代への承継を考えています。本格的に承継への準備に着手しましたが、気がかりなのは税理士からも指摘を受けた家族への税負担です。社長とコンサルタントのやり取りを通じ、社長の自社株の信託を検討したケースを紹介します。

社長はまず、遺言を作成することにしたが…

税負担を下げることは簡単ではなさそうなので、稲垣社長は、まずは遺言の作成から着手しました。誰に何を相続するかを決めようと、稲垣社長は、表を作り、その表に財産名と金額を入れて、分割案を検討することにしました。

 

この分割案の検討方法を教えてくれたのは、自社株承継に詳しいコンサルタントの堀江氏です。堀江氏は、「相続には、その人が持つ財産について戦略を考え、戦略のもと課題に向けた戦術(対策)を執行していく必要がある」といいます。戦略がないなかで戦術を執行すると、各対策の一長一短に影響を受けることがあるといいます。せっかく検討した対策の効果が大きく変わってしまうそうなのです。まずは、家族が揉めない分割案を社長一人で考えずに、社長に寄り添って相続の戦略を考えてくれる人と一緒になって検討することが必要だといいます。

 

「相続税などの税金は減らしたいのですが、資産額に応じた一定の税負担は致し方ありません。税負担は〈資産承継のコスト〉と割り切ることも必要です」

 

「しかし、コストは放置するのではなく、時間をかけながら下げていくこともあきらめないで実行していきましょう」

 

堀江氏はこのように語ります。

「信託の利用」という選択肢もある

また堀江氏は、信託の活用にも詳しく、稲垣社長に1つ提案をします。

 

「稲垣社長の相続に、配偶者の税額の軽減を利用しませんか? 被相続人(稲垣社長)の配偶者が相続した資産の額が、1億6000万円又は配偶者の法定相続分(1/2)のどちらか多い額までは、配偶者に相続税がかからないという制度がありますよ」

 

稲垣社長は、堀江氏に重ねて質問します。

 

「私の資産額は、昨年の試算では4億円です。この制度を利用すれば、妻は2億円相続しても、私の相続では相続税を負担しなくてもよいということですか?」

 

「私の資産の多くを自社株が占めているんです。この制度を利用すれば、妻は自社株も相続する必要があります。妻が自社株を相続すれば、後継者の次男の持株割合が減ってしまう。そうなれば次男の経営に影響が出てしまうのではないでしょうか?」

 

稲垣社長の質問に、堀江氏はこのように答えました。

 

「はい、おっしゃる通りです。奥様は相続税の負担がないものの、奥様が自社株を相続したら、次男さんの持株割合が減り経営的には問題です。その問題に対応するために、〈信託〉を活用する方法を検討してみたいと思います」

 

稲垣社長は「信託」という方法を初めて聞きました。堀江氏にさらに質問したところ、堀江氏は下記のように回答しました。

 

「稲垣社長が持つ自社株を、次男さんに信託します。〈信託する〉とは、〈信託する資産(自社株)の管理や処分を信頼する人に任せる】ことです。自社株を持つ稲垣社長は、信託の〈委託者〉、信頼されて株式の管理・処分を任される次男さんは、信託の〈受託者〉といいます」

 

「信託は、信託法という法律で、3つの方法のいずれかで行うこととされていますが、多くの信託は、委託者と受託者との間で契約(信託契約)を締結する方法で行われています」

 

「稲垣社長が持つ自社株を信託すると、自社株は〈信託財産〉となり、その所有者は受託者になります。受託者は御社の株主になります。受託者が株主になったからといって、受託者が好きなように自社株を管理・処分することはできません。また、受託者は受託者が持つ固有の財産と信託財産を分別して管理しなければなりません。受託者は信託契約に規定されている信託の目的を実現する義務を負います。信託財産の管理・処分は、信託契約に規定されたことに従って受託者が管理・処分します」

 

「信託には、受益者という立場の人もいます。受益者は信託契約に規定される受益権を持つ人です。受益権は信託契約にその権利の内容を規定します。今回の検討では、信託財産の利益(配当)を得る権利とします。稲垣社長の信託では、委託者である稲垣社長が受益者にもなる信託とします。稲垣社長は、株式の配当を受益者として引き続き得ていきます」

受益者連続型信託を活用し、配偶者の税額の軽減を利用

そして次が大きなポイントになります。

 

「稲垣社長が亡くなってもこの信託は継続することとします。自社株の管理・処分は、引き続き次男さんが行います。稲垣社長が亡くなると、稲垣社長が持っていた受益権はなくなり、新たに次の人が新たな受益権を持つように信託契約に規定します。この新たな受益権を持つ人が、稲垣社長の奥様と次男さんとします。そして、奥様と次男さんが持つ受益権の割合を決めます。奥様が50%、次男さんが50%とすれば、信託財産の配当を半分ずつ得ることになります」

 

「信託について、税法では、受益者が信託財産を所有するとみなして税を課すことになっています。稲垣社長が亡くなったとき、次の受益者が奥様と次男さんになれば、受益権の割合で信託財産を相続したとみなされて相続税の課税対象となります」

 

「受益権の割合をいくらにするかは、自社株以外の財産を奥様がどれだけ相続するかをふまえて決めていくことになります。配偶者の税額の軽減を最大限利用するのか、二次相続(奥様の相続)の相続税のことをふまえて、最大限度まで利用せずにもう少し少なくするか、税理士に税の試算をしてもらいながら決めていけばよいでしょう」

 

「稲垣社長が亡くなったとき、この信託では、受託者が次男さんなので、信託財産の自社株の議決権行使は、次男さんが行います。しかし、税法では、次男さんは受益権の割合しか財産を相続したことにならないので、次男さんに議決権行使を集中しつつ、相続税の計算では財産を分散することができるのがポイントです。この信託を受益者連続信託といいます」

 

「信託は終了する事由を規定することも必要です。この信託では、稲垣社長と奥様がともに亡くなったときに信託が終了し、終了したときに残っている信託財産は、次男さんに帰属すると規定することで、最終的に自社株は次男さんが承継することになります」

法律専門家と税務専門家を交えて検討を

「堀江さん、ぜひ、信託を検討してみたいと思います!」

 

堀江氏の説明を聞いた稲垣社長は、信託を活用した自社株の承継に興味を持ち、さらに詳しく検討したいとの意向を示しました。すると堀江氏は、「いま私がお話したのは、信託の利用におけるよい点だけです」と前置きし、話を続けました。

 

「可能性は低いですが、稲垣社長や奥様より次男さんが先に亡くなるかもしれません。信託を引き受ける次男さんには負担が生じますし、また、次男さんが信託契約の通りに事務をしなければ大変です。信託は委託者と受託者の信頼関係で成り立つものですが、その信頼関係が失われたときには問題が生じるなど、リスクのある仕組みです。ですから、法律の専門家、税務の専門家、そして次男さんも交えて検討していく必要があります。私は、信託には詳しいのですが、信託は複数の専門家が連携して作り、そしてそれを支援していくことも必要です」

 

稲垣社長の来年の引退に向け、ここから具体的に検討を進めていくことになります。
 

 

石脇 俊司
一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
株式会社継志舎 代表取締役

 

 

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    一般社団法人民事信託活用支援機構 理事
    株式会社継志舎 代表取締役 

    外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、本機構の立ち上げに参画。金融機関での経験を活かし、企業オーナー等の資産承継対策の信託実務を取り組む。会計事務所と連携した企業オーナーや資産家への金融サービスの提供業務にも経験が豊富である。著書に『信託を活用した ケース別 相続・贈与・事業承継対策』(共著・日本法令)『「危ない」民事信託の見分け方』(共著・日本法令)がある。

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