習近平がアリババというかジャック・マーをかなり締め上げています。これはアリババの持っているインフラを支配したいからだと思われます。それはなぜでしょうか。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

狙いはアリババが持つインフラの価値

それからもうひとつ、お金は個人情報を伴うという側面です。反体制派でも、習近平の政治的ライバルの派閥のボスでも、その一族でも、あるいはマフィアでも、監視したい対象を最も効率的に監視する方法は、お金をどういうふうに使っているかをすべて日々刻々、AI(人工知能)によってモニタリングすることです。

 

これらのことを可能にするのは何かというと、貨幣のデジタル化です。

 

例えば中国人民銀行がデジタル人民元を発行して、「はい、みんなこれを使いなさい」とやると、匿名性がなくなる。それは皆知っています。それに対して、ビットコインなどは匿名性が高い。だから、習近平政権はビットコインを目の敵にして、ビットコイン取引やビットコインをコンピュータで入手する採掘(マイニング)を2021年に全面禁止にしました。アリババのアリペイも同様です。

 

ペイペイなどのオンライン決済サービスは結局、銀行経由になるため、当局が銀行を押さえているかぎりは追跡できます。

 

アリババが当局にアリペイのデータを出せと言われたとき、もし抵抗したら、アリペイには当局に踏み込まれて匿名性を失うかもしれないなど、不安はないとは言えません。ただ当局がその気になれば、アリペイであってもモニタリングは、完璧ではないとしても可能だと思います。これがデジタル人民元になると、国が発行するわけですから、完璧にできてしまいます。

 

■習近平がアリババを締め上げる理由

 

習近平がアリババというかジャック・マーをかなり締め上げています。これはアリババの持っているインフラを支配したいからだと思われます。アリババの持っているデータのプラットフォーム、ネットワーク、そしてデータベースをすべて、中国共産党に差し出せということなんでしょう。

 

だから、アリババに対し、独占禁止法違反で182億人民元(約3000億円)もの罰金を科し、アリババ傘下で、オンライン決済プラットフォーム「アリペイ」を運営しているアントグループの新規株式公開を無期延期させたのは、デジタル人民元導入の布石だと思われます。共産党中央は相当賢い。すべて戦略的にやっていますから。

 

習近平がジャック・マーに「お前は江沢民などと仲良くしていてなんなんだ」といちゃもんをつけて、いま押さえつけているという説が多いですが、私が聞いた話では、マーは非常に目の行き届く人で、習近平のご機嫌取りもきちんとやっていたそうです。実業家の常として、時の権力者に変なことはしません。

 

恐らくデジタル人民元を導入した際にジャック・マーが金融帝国をつくって、共産党にもどうしようもない力を持たれると怖いというのが本音じゃないでしょうか。実際、マーは巨大なネット銀行といってもいいアントまで持っています。

 

もしアントが普及すると、中国の一般の消費者や預金者が「なんだ、アントでいいじゃないか」とジャック・マーが英雄視されて、習近平のやっていることは人民いじめだと見なされる。こうなるとまずい。だから、習近平はいまのうちにジャック・マーを抑え込んで、無力化しようというのが、ジャック・マー締め上げの目的だと私は見ています。

 

繰り返しますが、この流れはデジタル人民元導入と大いに関係があると思います。習近平にしてみると、デジタル人民元の導入は彼の絶対支配の総仕上げなのでしょう。だからまず香港を国家安全維持法で、金融市場の儲ける自由だけは保証しながらも完全に支配下に置く。あとはデジタル人民元でお金の動きを完全に把握して完成するのです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

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