「被災地にガス供給6時間続行」既成事実を覆した記事 (※写真はイメージです/PIXTA)

現場を取材し、自分の心で感じ、自分の頭で考え、また取材を繰り返し、事実を拾い集めます。そうやって書いた記事は、さらに制度の改善につながったといいます。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

事実を拾い集めた記事が制度改善につながる

当時、業界の自主基準では『一定レベルの大きな揺れを感知した場合、速やかにガス供給をストップする』と定められていました。法的な拘束力などがない自主ルールだったということもあったのでしょうか。

 

ガス会社はこれに従いませんでした。ガス会社の幹部に取材すると、「速やかに判断して6時間後に供給停止した」と言いました。「6時間」が「速やか」という解釈でした。果たしてそうなのだろうか。私は懸命に自問自答しました。

 

ガス供給をいったん止めてしまうと、すべてのガス管を検査しなければならず、多額の費用がかかります。それが懸念となって、ガス停止の判断が6時間後になってしまったのではないか。私はそう見立てました。ガス会社の見解と相反する記事は勇気が要ります。でも、人の命よりも経営優先の企業倫理が優先されたのかもしれないと考えました。

 

そのころ、私は神戸市消防局が被災地に漏れた大量のガスが二次火災の原因になった可能性があるという報告書をまとめようとしていることを察知しました。また、当時、関東地区の東京ガスは、大きな揺れを検知した場合、1~2秒という瞬時にガス供給を停止する仕組みをすでに導入していました。こうした背景、要素を記事に盛り込みました。

 

『大手ガスが業界基準に従わず被災地にガス供給6時間続行』

 

記事を流した直後、ガス会社の広報責任者が私に抗議の電話をかけてきました。普段は温厚なこの責任者はものすごい剣幕でした。「事実無根だ。記事をすぐに取り消せ!」と怒鳴り散らします。押し問答が1時間。ガス停止までに要した「6時間」は速やかなのか、そうでないのか。私に動揺はありませんでした。

 

漏れたガスの影響で焼け死んだかもしれない女性のことが頭にありました。「6時間も被災地にガスを垂れ流した影響で、死傷者が1人も出なかった、とあなたは証明できますか」と広報責任者に私は静かに尋ねました。すると、彼は受話器をたたきつけ、抗議をやめました。私の特ダネ記事は翌日、共同通信に加盟する全国各紙の朝刊1面などに掲載されました。

 

『資源エネ庁、震災時のガス会社のガス供給基準を厳格化へ』

 

震災から1年となるタイミングで私はこの記事を書きました。ガスの供給ストップの基準があいまいだったことに強い疑問を持っていました。この資源エネルギー庁の担当者に「大勢の犠牲者が出ないよう、基準を厳しくした方がいいと思います」と働きかけました。

 

エネ庁は震災時の供給停止基準を厳格にする方針を決めました。この制度の見直しで、大地震の際のガスによる犠牲者が減ることになるかもしれません。

 

当初、多額の復旧費用がかかる被災地のガス会社に多くの人が同情的でした。しかし、私は、このガス会社の判断はおかしいと思い続けました。

 

振り返れば、これが自考です。現場を取材し、自分の心で感じ、自分の頭で考え、また取材を繰り返し、事実を拾い集めました。そうやって書いた記事は、さらに制度の改善につながりました。「これが記者という仕事なんだ」と初めて知りました。

 

自分が本当におかしいと感じたら、たとえ世界中の人が反対したとしても、こだわり続けるしかありません。既成事実を上回る事実にたどり着ければ、既成事実は覆ります。

 

岡田 豊
ジャーナリスト

 

 

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    ジャーナリスト

    1964年、群馬県高崎市生まれ。日本経済新聞記者を経て1991年から共同通信記者。山口支局、大阪支社、経済部。阪神淡路大震災、大蔵省接待汚職事件、不良債権問題、金融危機など取材。2000年からテレビ朝日記者。経済部、外報部、災害放送担当(民放連災害放送専門部会委員)、福島原発事故担当、ANNスーパーJチャンネル・プロデューサー、副編集長、記者コラム「報道ブーメラン」編集長、コメンテーター、ニューヨーク支局長、アメリカ総局長(テレビ朝日アメリカ取締役上級副社長)。トランプ氏が勝利した2016年の米大統領選挙や激変するアメリカを取材。共著『自立のスタイルブック「豊かさ創世記」45人の物語』(共同通信社)など

    著者紹介

    連載自分の頭で考える、自分のやり方を考える

    本連載は、岡田豊氏の著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    自考

    自考

    岡田 豊

    プレジデント社

    アメリカでの勤務を終えて帰国した時、著者は日本は実に息苦しい社会だと気付いたという。人をはかるモノサシ、価値観、基準の数があまりにも少ない。自殺する人があまりにも多い。笑っている人が少ない。他人を妬む。他人を排…

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