(※写真はイメージです/PIXTA)

大腸がんになって考えたという。「死を意識しない人間はどこか生き方が放漫になる。死神をチラッと見たからこそ、最後に少しだけ本気で、マジメに自分自身に向き合ってみようと思った」という。還暦から筋トレを始めた城アラキ氏が著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)で解説します。

90日も経てば人はまったくの別人になっている

■この話は「死神」でやろう

 

開腹手術ではなく腹腔鏡手術とはいえ、大腸を10㎝ほどもちょん切って引っ張り合わせて縫っているのだから少し笑うだけでも激痛だ。動けないし笑えないし話すのも辛い。しかたないから頭のなかだけ必死に動かし、次の原作のネタを考えた。このガンの経験をまんま話の縦軸にして落語の『死神』と合わせよう。

 

落語『死神』のオチはこうだ。さんざん死神をおちょくり、もてあそんだかに見える男が最後の最後、自分の寿命が燃え尽きそうなのを知る。男は死神を拝み倒し寿命のろうそくを新品に交換してもらう。男が新しいローソクに火を移そうとすると死神が意地悪く言う。

 

「気をつけないと消えちゃうよ、消えちゃうよ……ほら!」

 

好事魔多し、禍福はあざなえる縄。大手術の困難を乗り越え、せっかく生き残ってホッとしたのも束の間、病院を出たところで初心者マークの車にはねられて死んでしまう。……そんな話になったら面白い。このときの話、実際の漫画でどう仕上げたか、読んでいただけたら幸いだ。

 

■「人生は90日」と考えてみた

 

「ガンをきっかけにトレーニング」と聞けば不健康な過去を悔い改め、健康のための体作りなんて思うだろうが、むしろ逆だ。目の前を通り過ぎた「死神」の姿を見てから、いっそうこう思った。

 

「どうせ明日の命なんてわからないなら、健康なんて馬鹿馬鹿しい。何が人生100年時代だ。そんな寝言を臆面もなく言うのはコツコツ積み立てた年金を平然と踏み倒し、ボロボロになるまでジジイを働かせたい政府と保険屋だけだ。信じちゃいけない」

 

ヤケになっていっそう酒を浴びるかわりに、ヤケになって酒を控えて筋トレをやってやるぞという覚悟である。手術前夜に見た我が身のままで死んでしまうのは少し悲しいじゃないか。

 

「一日一生」=朝に生まれて夜には死ぬ。毎日毎日それをただ繰り返す。だから昨日に煩わされず明日に不安を抱かない。と言ったのは千日回峰行を2回も回った大阿闍梨・酒井雄哉さんだ。確かに「朝には紅顔ありて夕べには白骨となる」という覚悟は日本人の美しい死生観。見習いたいところだが、1日だけで一生を生ききるのは、さすがに少々せわしない。そこで人生は90日と思って生きようと、このとき密かに決めた。

 

■本気の90 日で体も変わる

 

「過去を追うな。未来を願うな。過去はすでに捨てられた。未来はまだやって来ない」というのは仏様の根本教義。ごもっとも。だから90日前のことはすべて忘れよう。怒りも憎しみも恩も義理もすべて忘れる。そうすれば少なくとも世間を怒りまくる「キレるジジイ」にはならなくて済みそうだ。そして90日から先のことは考えない。予定も入れない。なるようにしかならぬと諦める。

 

なぜ90日か。人の細胞はほぼ90日で入れ替わるという。いずれ、90日も経てば人はまったくの別人になっているのだ。

 

自分の過去が、いや自分自身の体と心すら、変わらず続いていると思うのは単なる幻想に過ぎない。そして何よりも筋トレのサイクルとしても理想的じゃないか。本気の90日があれば今からでも体は変わる。

 

■「死にとうない」

 

……と、偉そうに余裕たっぷりに書いているが、死神は怖くなかったか。無論、怖いがしかたがないという思いもあった。実は私、大学生の頃から雑誌のライターをやっていたから、難病や障がいを持つ子どもたち、その病のために死んでいった子たちの取材をさんざんしてきた。

 

そりゃ誰だって明日の命はわからない。子どもだからと、その運命からは免れられぬ。頭でそう思っても、ものには「ほど」というものがある。5歳や10歳で亡くなるのは、あまりに理不尽だ。それに比べりゃ還暦なんて十分に生きただろう、死神が肩を叩いたとしてもしかたない。と、今度こそようやくすっきりと納得……できたか。

 

江戸時代、博多・聖福寺に仙厓和尚という名僧がいた。禅宗では臨終のときに「遺偈」といって最後の言葉を残す。宗教家としての生涯すべてを賭けた遺言だから重い。弟子が言葉を待つとこう言った。

 

「死にとうない」
「えっ?」と慌てて弟子が訊き直す。東の一休、西の仙崖と言われた名僧の死に際の言葉が「死にとうない」じゃ世間様にカッコがつかぬ。弟子が再び訊く。

 

「それでも死にとうない」

 

私、この話が大好きだ。

 

■意味がなきゃ自分で見つける

 

意味はいろいろに解釈できるが、なかなか含蓄深い話じゃないか。私がこのエピソードをどう解釈したかはヒミツ。ただ、ひとつだけ実感したことはある。死を意識しない人間はどこか生き方が放漫になる。死神をチラッと見たからこそ、最後に少しだけ本気で、マジメに自分自身に向き合ってみようと思ったわけだ。その心にも体にも──。

 

そう。神は無意味な試練は決して与えない。起きたことには必ず意味がある。意味がなけりゃこれがチャンスと見つければいい。

 

城 アラキ
漫画原作家

 

 

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    本連載は、城アラキ氏の著書『負けない筋トレ 還暦から筋トレにハマったら、「肉体」と「人生」が激変した!』(ブックマン社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    負けない筋トレ

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    城 アラキ

    ブックマン社

    『ソムリエ』『バーテンダー』など、数々のお酒にまつわる傑作漫画の原作を手掛けてきた著者は自他ともに認める酒呑みであり、美食家だ。3日に一度は暴飲暴食。仕事柄、1日の歩数が500歩なんてザラだった。運動もしない日々を…

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