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かつては「診療報酬のうまみが少ない」とないがしろにされ、人員不足等による劣悪な労働環境から自殺や過労死する医師も出るなど、「激務・薄給の代名詞」として医学部生から敬遠されていた小児科医。しかし、診療報酬の改定や「コロナ特需」により、いまや日給40万円、50万円など破格の待遇も散見されると、高座渋谷つばさクリニック院長の武井智昭先生はいいます。普段なかなか知ることのできない「医師のおカネ事情」について、詳しくみていきましょう。

画期的な診療報酬改定…小児科「起死回生」へ

こうした小児科の救急医療の脆弱性を踏まえて、2004年に画期的な診療報酬改定が行われました。前述の「地域連携小児休日夜間診療料」の算定要件が「24時間体制でもなく、3名以上の連携でも可」と大幅に改善されたのです。

 

この診療報酬改定(政策誘導)は功を奏し、多くの入院対応可能な医療機関が小児救急を輪番制にして対応するようになりました。加えて、入院患者に対する診療報酬に関しては、入院日数と入院病名により一定金額が支払われる「DPC制度」導入が行われ、入院医療においても大幅な収益増加となりました。

 

この加算により、いわゆる「風邪」のお子さんが休日・夜間に外来を受診した場合、1人あたり12,000円~15,000円の診療報酬となります(成人の日中では4,000円程度のため、経営効率は3~4倍になりました)。

 

1日30名を夜間に診療した場合は、40万円程度、さらに肺炎や脱水などで入院医療となった場合、約1週間の入院で30万円程度の大幅な収益になるため、経営効率は急変の多い内科を超えることとなりました。

 

また同時期に、たらい回しされ受診の行き場がない小児救急患者を救おうと、365日診療体制を行う診療所が誕生しました。診療所においても、政策誘導による経営維持が休日夜間診療を行っても成り立つことが判明したため、次第に時間外の診療を行う診療所も増加し始めました。

 

こうした潮流の変化から、病院内でも小児科単科では黒字決済となるようになり、小児科医の待遇も向上し始めました。2000年以前と比べて、当直医師報酬が1.5倍~2倍(1晩で10万円以上)となり、薄給であった大学病院医師などからは重宝された案件となりました。

2010年~2020年までの医療変化

このように、ある種ブームとなった「小児救急」ですが、2010年までには髄膜炎関連のワクチン(ヒブワクチン・肺炎球菌ワクチン)の導入、ステロイド吸入・ロイコトリエン拮抗薬などの予防などの気管支喘息の治療概念が変化したことから、発熱患者数はインフルエンザシーズンのみ増加し、それ以外はほぼ減少してきました。

 

髄膜炎・敗血症・肺炎・気管支喘息発作などの小児救急患者の上位を占める疾患の患者数が激減しました。

 

以前のような、多数の小児科患者が押し寄せる光景はこのころにはみられることが少なくなりました。ただ、少子高齢化において子供を大事に育てる風潮や公的援助がさらに手厚くなり、結果として当直医師の補助金にも充当されていました。

 

加えて、日本小児科学会を先導に、子どもがたとえ広域であっても必ず24時間受診ができ、高度な医療を維持することが可能である「小児科拠点病院構想(集約化)」が実施されました。診療報酬においても集約化により、入院患者も増加し、入院診療単価加算増も認められ、安定した病院経営が可能になりました。

 

また、子育てをする家族にとっても安心できる環境であり、勤務をする小児科医にとっても当直の負担が減り、2000年ころの状況と比較すると理想的な形態となりました。

 

こうした労働環境の整備に伴い、小児科は未来のある子どもを守ることができる診療科の特徴を含めて、医学部生からも魅力的な診療科となり、人気が高まりました。都心の大学医局では入局者が20~25名という勢いでした。