(※写真はイメージです/PIXTA)

「協調性」や「学力」を重視し、紋切り型の人材育成を目的とした戦後教育をいまだ色濃く引き継ぐ、現代日本の教育現場。社会に出てから必要な「独創性」や「問題解決能力」、「知識の運用」などの礎となる「主体性」の育成に重きを置かれない教育は、毎年新社会人が送り出されている社会全体にどのように影響を与えているでしょうか。世界中で多様な教育現場を視察し、独自に編み出した教育ビジネス構想を実現させるため、2015年にソニーグループ初の教育事業会社・株式会社ソニー・グローバルエデュケーション(SGE)を設立。現在同企業の取締役会長を務める礒津政明氏による著書『2040 教育のミライ』から、現代日本における教育の問題点とその改善策について解説します。

日本や韓国などアジアの一部にのみ色濃く残る学力主義

しかしそんな欧米も、かつては日本のように労働者としての従順な人材を求め、一斉授業による画一的指導を行っていました。しかし1980年代後半の教育改革以降、一斉授業から距離を置くようになりました。

 

それはトップダウンで起きたというより、「学習とは何か」という本質的なところにおいて、教育関係者の発想の転換が起きたからです。

 

簡単に言えば「子どもたちは、理解力も才能も、環境も成長の速度もみんな違うのだから、教室でみんな揃って同じことをするのはおかしい。学びの形は違って当然だ」ということが、広く認知されるようになったのです。

 

ちなみにこの時代、アメリカでは現場の教員たちが知恵を持ち寄り、最適な学習スタイルを研究する団体がいくつか立ち上がりました。

 

その中のBIE(Buck Institute of Education) という非営利団体は、現在「PBLWorks」というブランドで、「プロジェクト型学習」の普及に努めています。

 

つまり、プロジェクト型学習一つをとっても単なる誰かの思いつきではなく、先人たちの長い試行錯誤の末に生まれたものなのです。

 

翻って、日本ではどうでしょう。日本の学校教育において個人の資質として求められていることは相変わらず「ペーパーテストを解く力」が主流です。

 

厳密に言えば文科省が目指しているのは「知(知力)・徳(人間力)・体(体力)」ですが、大学入試で評価されるのは「知」だけなのです。

 

しかし、[図表1]を見ればわかるように、いま世界標準の教育において「学力・知識」とは、3つの資質を持った人間が持つべきさまざまなコンピテンシー(能力)を構成する一つの要素にすぎません。

 

[図表1]OECD ラーニングフレームワーク2030

 

日本における教育の定義を遡ると、昭和に改正された教育基本法にたどり着きます。そこには意外なことに、「真理を求める態度」「創造性」「社会への参画」「国際社会への貢献」など、いま見てもまったく色あせない、理想的なビジョンが掲げられています。

 

それにもかかわらず、なぜ日本は現在のような偏った教育観を持つに至ってしまったのでしょうか。

 

実は、いまだに学力至上主義に囚われている国は、世界でも日本や韓国など、アジアの一部の国だけです。もはや「学力」だけで人の優劣を評価することは完全に時代遅れなのにもかかわらず、です。

 

しかも、日本ではその育成方法が明治時代以来変わらないトップダウンの工場人材育成型なので、結果的に「素直さ」「同調性」といった、OECDの目標とは正反対の資質を持った人間を育成し続けています。

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