「おめでとうなんて言われたこと一度もなかったのに…」死後、無口だった夫のケータイが突然鳴ったワケ 

「おめでとうなんて言われたこと一度もなかったのに…」死後、無口だった夫のケータイが突然鳴ったワケ 
(画像はイメージです/PIXTA)

予期せぬ別れに直面したとき、人は何を思い、どう乗り越えるのか。書籍『もう会えないとわかっていたなら』(扶桑社)では、遺品整理会社、行政書士、相続診断士、税理士など、現場の第一線で活躍する専門家たちから、実際に大切な家族を失った人の印象深いエピソードを集め、「円満な相続」を迎えるために何ができるのかについて紹介されています。本連載では、その中から特に印象的な話を一部抜粋してご紹介します。

不器用さを恨めしく思った「アラームの意味」

「今日、三月一八日って何かの日だったりしますか?」

 

奥さんは眉間に皺を寄せて、一瞬、口をへの字に曲げてから言いました。

 

「何の日ってこともないけど、私の誕生日ではあるわね」

 

僕はアラーム設定のディスプレイを奥さんに見せました。

 

「和田さん、奥さんの誕生日を忘れないように、アラーム設定していたみたいですね」

 

奥さんは「まさか」と言って、和田さんの携帯電話を手に取りました。

 

「今朝、携帯が鳴ったのは、このアラームが作動したからですよ」

 

奥さんは何も答えず、握りしめた携帯電話をじっと見つめていました。

 

調べてみると、和田さんの携帯電話には四件のアラーム設定が登録されていました。奥さんと二人の子どもの誕生日、そして、奥さんとの結婚記念日です。それが、僕にはとても意外でした。

 

口数が少なくぶっきらぼうな職人気質の和田さんが、携帯電話に記念日を登録するようなことをしていたなんて、すぐにはイメージできませんでした。

 

それでもそのアラームは、機械音痴の和田さんが、家族を思い、一生懸命登録したに違いありません。和田さんが誕生日や結婚記念日を忘れないようにしていたことを、奥さんは「ぜんぜん知らなかった」と言いました。

 

「だって、誕生日だからって、おめでとうなんて言ってくれたこと一度もなかったんだから」

 

僕は和田さんの不器用さを恨めしく思いました。それならば、何のためのアラームだったのか。和田さんが生きていたら、問い詰めずにはいられなかったでしょう。だけど、僕のそんな思いは、次の奥さんの言葉で吹き飛びました。

 

「でも、毎年、ケーキだけは買って帰ってきてたわ。小さなケーキの箱を黙ってテーブルの上に置くのよ」

 

それが、ぶっきらぼうな和田さんの精一杯の愛情表現だったのでしょう。不器用だけど、愛のある和田さん。僕は、和田さんにもう一度会いたくなりました。

 

うちの会社では今日も、自慢のカウンターがお客様を迎えています。

 

本連載は、2022年8月10日発売の書籍『もう会えないとわかっていたなら』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございます。あらかじめご了承ください。

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