(※写真はイメージです/PIXTA)

信託は「高齢者の認知症対策」としての利用が増えていますが、金銭や不動産の資産管理が多く、自社株への利用例はまだ少ない傾向です。しかし、信託の「分ける・継ぐ・まとめる」機能を活用することで、社長が持つ自社株の相続対策の非常に有効な手段となります。今回は、信託の機能を活用して自社株の承継対策を行うことを決めたある社長の事例を、社長とコンサルタントたちのやり取りを通じて紹介します。

「自社株を信託する」という選択肢

社長の回答を聞いた大谷氏は「ありがとうございます」とお礼を言うと、以下のように説明を続けました。

 

「信託という方法があります。鈴木社長が持つ自社株だけを信託して、鈴木社長に万が一の事態が生じたときには、後継者候補の次男に自社株を承継する方法を提案します。

 

鈴木社長に万が一の事態が生じた場合、鈴木社長の遺言がない場合には、自社株以外の資産は遺産となり相続人の遺産分割手続きにより分割されますが、信託した自社株だけは、遺産分割の手続きを行わず、速やかに後継者候補の次男にわたります。

 

信託を簡単に説明します。鈴木社長が信頼する相手に鈴木社長の大切な自社株を渡して、自社株を管理してもらう仕組みです。

 

渡して、と申し上げましたが、信託すると株主は鈴木社長から、信頼して自社株を渡した人が株主となります。つまり、自社株の所有権は鈴木社長から信頼して自社株を渡した人に移ります。鈴木社長と信託を引き受ける人との間で強い信頼関係がないと、信託は成立しないのです。

 

信託のしかたは、法律により3つと決められています。3つのうちの1つが契約による方法です。ほとんどの信託は契約により行われています。

 

鈴木社長と信託を引き受ける人との間で信託契約を結んで信託を行います。契約の内容は、鈴木社長が信託する目的である後継者候補の次男に自社株を承継することを実現するよう、オーダーメイドに作っていきます。

 

信託を引き受ける人のことを、法律の用語で、受託者と言います。そして信託を任せた鈴木社長は、法律の用語では委託者と言われます。

 

受託者は、鈴木社長のご家族でも、または信託の引受けを業とする信託会社や信託銀行でも、どちらでも鈴木社長が希望する方を選ぶことができます。信託会社や信託銀行を選ぶと信託会社や信託銀行に報酬を支払わなければなりません。ご家族が引受ける場合には、ご家族が報酬を必要としなければ報酬を支払う必要はありませんが、信託の仕組みを作ることの費用が必要です。

 

自社株を信託すると、受託者が株主となり、議決権を行使していきます。受託者は、鈴木社長が信託する目的を実現する義務を負って自社株を管理していきます。

 

受託者に自社株が渡っても、受託者は受託者が持つ固有の資産と信託財産を分別して管理していかなければなりません。信託された財産(信託財産)は、受託者のものとはならず、受託者は信託財産を分別して管理する義務を負います。

 

また、信託では、信託財産の利益を得ていく受益者を決めます。受益者は鈴木社長にすることも、鈴木社長以外たとえば次男にすることもできます。鈴木社長が受益者の場合には、信託したときに受託者にも鈴木社長にも課税されませんが、受益者を鈴木社長以外の人にしたときは、受益者が信託財産を委託者より贈与されたものとして課税されるので注意が必要です。

 

これまでの説明を少しまとめながら、鈴木社長の信託の仕組みを検討したいと思います。

 

鈴木社長が持つ自社株を信託します。受託者は後継者候補の次男とします。そして信託財産の利益を得る受益者は鈴木社長とします。この信託では、信託したときに特に誰にも課税は生じません。

 

受託者が株主として議決権を行使します。受託者の次男に議決権行使を任せるのではなく、オプションをつけます。受託者に議決権行使を指図する指図権を設け、その指図権者を鈴木社長とします。こうすることで、信託しても鈴木社長は引き続き議決権行使に関与し続けることができます。

 

信託が終了する事由を定めます。鈴木社長がやめたいと思ったときにはすぐに終了することができるようにしておきます。また、鈴木社長が亡くなることも信託の終了事由にします。鈴木社長が亡くなって信託が終了するときには、信託財産は、次男に戻されるようにします。信託が終了したときに信託財産が戻される人を信託財産の帰属権利者と言います。鈴木社長が亡くなったときの帰属権利者を次男とすることで、遺言がなくても、速やかに自社株を次男に承継することができます」

 

次ページ信託に加え、「もう1つリスク回避」の方法も

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