(※写真はイメージです/PIXTA)

世界有数の医療先進国でありながら、病気になる前に予防する「予防医学」の浸透が遅れている日本。なぜ、日本人の予防意識が高まらないのか。その大きな要因として挙げられるのが「国民皆保険制度」です。治療費の自己負担が少ないのは大きなメリットですが、「病気になったら治せばいい」という考えで医療に依存するのは危険です。予防意識を高めるため、本稿では「国民皆保険制度」が抱えるリスクや弱点について見ていきましょう。歯科医師の金子泰英氏が解説します。

「受けなくてもいい治療」を行い診療報酬を稼ぐ病院も

【国民皆保険制度の弱点③診療報酬が優先されてしまう】

超高齢社会で、すぐに医療が受けられない状況になることへの危惧がある一方、受けなくてもいい治療が蔓延しているという事実もあります。

 

例えば、保険診療の点数が高い「胃ろう」は、病院が経営維持のため無駄に行っているのではないかと問題視されました。胃ろうとは、お腹に小さな穴を開けて胃までチューブを通し、そこから栄養を摂る方法です。口から食べることが難しい人や、誤嚥性肺炎を繰り返している人に行われますが、ご本人が意思疎通できない状態で行われることが多いという問題がありました。しかし、胃ろうの診療報酬の点数は10070点と高かったことから、日本では海外と比べて胃ろうを造設する治療が多かったのです。

 

一方で、日本老年医学会は、「本人の尊厳を損なう恐れがある」として、高齢者における終末期の胃ろうは慎重に判断していくべきだという立場を表明しています。

 

厚生労働省も胃ろうの造設に当たって、嚥下機能の評価や嚥下回復率35%以上という基準を設けています。2014年には、病院が回復の見込みがない人へ胃ろうを造設することを防ぐため、胃ろうの診療報酬の点数が10070点から6070点に引き下げられました。

 

すると、2008年では8348件の胃ろう造設が行われていたのに対し、2014年では5064件と減少し、点数に縛られる病院の実態が明らかになったのです。

保険診療内で受けられる治療の「限界」

【国民皆保険制度の弱点④治療の範囲が限られている】

保険診療では治療の範囲が限られ、十分な治療ができないケースもあります。

 

例えば歯科の場合は、歯に使用できる材質が、保険診療と自由診療では異なります。日本では、昔から安価で強度の高い銀歯を入れる場合は保険診療の範囲で、白いセラミックの歯を入れる場合は自由診療でした。

 

ただ、最近は見た目の問題や金属アレルギーの人が増えたことから、レジンという素材で作られる白いかぶせものが保険適用となりました。しかし、レジンはセラミックとは異なり、強度が十分でない、変色しやすいという問題があります。また、保険診療の範囲では、レジンは限られた(上下とも6番目の)歯にしか使えないといった決まりごともあります。

 

そもそも、海外では日本のように口の中に金属を入れることが少なく、銀歯を入れること自体が珍しいものとされてきました。最近は金属が高騰していることから日本でもメタルフリーの流れとなっていますが、見た目的にも、材質的にも優れた素材を自分の好きな部分に使いたいとなると、自由診療になってしまうのです。

 

 

金子 泰英

医療法人KANEKO DENTAL OFFICE 理事長・院長

 

 

※本連載は、金子泰英氏の著書『予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人

予防弱者 知らぬ間に不健康に陥る日本人

金子 泰英

幻冬舎メディアコンサルティング

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