(※写真はイメージです/PIXTA)

性感染症の「梅毒」が爆発的に増加しています。梅毒とは何か。どのように感染し、どのような症状が現れるのか。自分やパートナー、周囲の人々を守るために知っておきたい知識を見ていきましょう。新宿サテライトクリニック院長・北岡一樹医師が解説します。

梅毒は病院に行かなくても治る?

治療しなければ、治ることはありません。ペニシリンという抗生物質が登場するまでは治癒方法がなく、感染した場合、一次梅毒、二次梅毒、三次梅毒と経過するか、途中で神経梅毒を発症し、死に至る病気でした。

 

■「症状が消えた=治った」ではない!?

一次梅毒や二次梅毒は治療しなくても自然に症状が消失します。それで勝手に治ったと勘違いしてしまうことがあります。また、治療を開始しても、治癒の判断基準は、症状消失ではなく、RPRと呼ばれる検査の数値です。基本的に、梅毒の症状の消失と治癒とは関係がないと思っておいてもらったほうが良いと思います。

 

■梅毒を放置するとどうなる?

症状は自然に消えたりしますが、治療しなければ治癒することはないため、放置すれば最終的には死に至ります。

 

また、梅毒は皮膚病変の直接接触で感染しますが、T. pallidumが大量に含まれ、他者への感染リスクが高い皮膚病変は、一次梅毒の下疳です。その時期を過ぎ、下疳が消失すれば、感染リスクは低くなるため、放置することで他者への感染リスクが高まっていくということはありません。

 

一方、妊娠している女性における、胎児への感染は、T. pallidumが血中に存在すれば起こりえます。梅毒に感染していれば、症状がなくても、T. pallidumは血中に存在するため、治療されず放置していると、胎児に感染してしまいます。梅毒が胎児に感染すると、胎児機能不全を引き起こし、発育不全・早産・死産の原因となります。また、出産できても、子供が先天性梅毒(産まれてから梅毒を発症する)になります。

無症状でも性感染症の検査を受けることが大切

■患者本人が感染に気がついていないケースも…

一次梅毒における下疳は、ほとんど無痛であり、自然に消失します。二次梅毒におけるバラ疹も無痛で、梅毒に特徴的とは言えない他の皮膚疾患でもありうるような紅斑・丘疹であり、自然に消失します。無痛であることが影響し、特に一次梅毒においては病変も局所に限定されるので、自分の性器を定期的に観察したりしていない限り、梅毒感染を見過ごしてしまいます。

 

梅毒においては、感染に気づきにくいということが非常に厄介です。通常の病気においては、症状が出現して、本人が気づき、病院を受診し、診断され、治療されるというサイクルを取ります。しかし、梅毒においては、症状が出現しても本人が症状に気づきにくいため、病院受診に至らず、知らないうちに病気が進行し、感染を広めてしまいます。

 

■性感染症はそもそも「無症状者」が珍しくない

また、この感染に気づきにくいということは、性感染症では一般的です。有病率が高く、不妊などへの影響もあるクラミジアや淋菌は、半数以上が感染していても無症状です。HIVやHBVにおいても、感染初期はほとんど無症状であり、無症状であるうちに見つけることができれば、薬を服用することでそれぞれ致死的なエイズ、B型肝炎への発展を阻止することができます。

 

つまり、性感染症に関しては、一般的な病気と異なり、何らかの症状に気づいてから病院に受診するのではなく、無症状であっても、不特定パートナーとの性交渉がある方は、定期的に病院に受診し、検査する必要があります。

 

感染症領域で様々な制度において進んでいるのがアメリカで、感染症を国として監視・管理するCDC(米国疾病対策予防センター)という機関があります。加えて、USPSTF(米国予防医療作業部会)という機関があり、性感染症の検査含め、検査・予防についての啓蒙活動を国として大々的に行っています。それに比べて、日本ではそういった組織もなく、性感染症の検査を受けることが一般的ではありません。性感染症においては無症状な疾患が多いことから、病気を進行させず、感染を広げないために、もっと気軽に検査を受けていただくことが望まれます。

 

以上、世界で最も信頼性のあるメタアナリシス(様々な研究・文献を統合して判断すること)の1つであるUpToDate(https://www.uptodate.com)をエビデンスとして記載しております。

 

 

【参考文献】

1)Kidd SE, Grey JA, Torrone EA, Weinstock HS. Increased Methamphetamine, Injection Drug, and Heroin Use Among Women and Heterosexual Men with Primary and Secondary Syphilis – United States, 2013-2017. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2019; 68:144

 

2)Sparling PF. Natural history of syphilis. In: Sexually Transmitted Diseases, Holmes KK, M ardh PA, Sparling PF, et al (Eds), McGraw-Hill, New York 1990. p.213.

 

 

北岡 一樹

医療法人社団予防会新宿サテライトクリニック 院長

早稲田大学ファージセラピー研究所 招聘研究員

 

三重大学医学部卒業。臨床研修後、名古屋大学で様々な薬剤耐性菌研究に携わり、博士(医学)取得。その後、早稲田大学で招聘研究員として研究しながら、医療法人社団予防会新宿サテライトクリニックで性感染症診療も開始。基礎医学と臨床医学を繋ぐ、研究医かつ臨床医であることを目指し、現在は新規感染症治療法(ファージセラピー)実現の研究に注力している。

ヒト感染症だけでなく、犬や猫の感染症も研究対象とし、犬猫の感染症研究費を集めるクラウドファンディングも実施して成功を収めた。

また、医療情報の発信も予防会のコラムに加えて、クラウドファンディングをきっかけとして各種SNSで行っている。

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。