(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2022年8月3日に公開したレポートを転載したものです。

「長期停滞」に入りつつある中国経済

それに対して中国経済は困難が強まっていくだろう。

 

IMFは2022年の中国GDP見通しを3.3%へと引き下げたが、これを機に中国は長期経済停滞に陥っていくだろう。

 

①投資減→バブル溶解・投資余地なし・地方財政困難
②輸出減→世界需要減速・対中貿易摩擦
③消費困難→失業増・家計債務余力無・企業賃上げ余力無


の三重苦が続いていくことは避けられない。緩慢なる不動産バブルの崩壊と金融の不良債権化が進行していくだろう。

 

外貨市場に不審な動きが起きている。2021年経常収支の黒字は3,173億ドルと巨額なのに、対外純資産は3,035億ドル減少した。合計2021年6,208億ドルの対外純資産消滅が起きている。アンダーグラウンドの資金流出か、巨額の投資損失か、帳簿の改ざんか、要警戒である。

 

一帯一路構想により中国の新興国への投融資が急増、新興国債務2,300億ドルのほぼ5割を中国に負っており、それが不良資産化するリスクもある。

 

2022年は中国経済の減速、アメリカのインフレ、ドル高もあり、名目経済成長率において初めて米中格差が拡大する年になるだろう。中国経済は中進国の罠に陥る公算が高まっており、永遠にアメリカに追い付けないという可能性も出てくるのではないだろうか。

 

[図表7]米中日欧(ユーロ圏)のGDP推移(名目ドルベース)と予想
[図表7]米中日欧(ユーロ圏)のGDP推移(名目ドルベース)と予想

困難化に向かうユーロ圏経済

もう1つ重要なポイントはヨーロッパにおける変化である。ユーロ圏の一体化と成長は、ドイツによって牽引されたわけだが、ではドイツの飛躍はなにによって可能になったのかというと、それは対中・対ロシアとの連携強化によってなされた、といってよい。

 

エネルギーのロシア依存を大きく高め、通商を中国に依存するというシフトがユーロ圏の繁栄の背景にあった。[図表8]は中国の国別輸出入の推移だが、2011年頃からの10年間、中国の対日本、対アメリカ、対韓国からの輸入はほとんどフラットであったのに、その間大きく伸ばしたのがユーロ圏、特にドイツからの輸入である。

 

[図表8]中国の国別輸出入の推移
[図表8]中国の国別輸出入の推移

 

こうしてドイツは巨額の貿易黒字を築き、その余剰を南ヨーロッパ(スペインやイタリア、ギリシャなど)にECBのユーロ・システムを通してファイナンスするというパターンがユーロ圏成長の土台となった。

 

[図表9]ユーロ・システム債権債務(Target2)
[図表9]ユーロ・システム債権債務(Target2)

 

そうしたドイツ主導のユーロ圏の繁栄は持続可能とは思われない。まず対中関係はこれから悪化していく。そしてまた、ロシアに著しく偏ったエネルギー依存体制は、ウクライナ戦争によって破たんした。つまりユーロ圏全体の成長のスキームに大きな疑問符がつきつつある。

 

しかし、欧州のなかで唯一イギリスだけはそのような制約から離れている。イギリスはブレグジットによりEUから離脱した途端、ユーロ圏に対する貿易赤字が大きく減少している。

 

このように、アメリカの繁栄そしてユーロ圏の困難化、中国の益々の停滞という中長期展望が描かれる。

 

そのなかで、日本はアメリカあるいはイギリスと連携を進めようとしているが、それはまさしく経済という観点からも適切な戦略であるというようにいっていいように思う。

 

[図表10]英国―経常収支(勘定項目別)推移
[図表10]英国―経常収支(勘定項目別)推移

 

安倍政権が外交面で打ち立てた構想は、経済面でも大きな成果に結びつく可能性が高いものといえる。以上が、当社が安倍政治を歴史的なものと高く評価する理由である。

 

 

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表
 

【関連記事】

税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

恐ろしい…銀行が「100万円を定期預金しませんか」と言うワケ

 

親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「儲かるなら自分がやれば?」と投資セミナーで質問すると

あなたにオススメのセミナー

    本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

    人気記事ランキング

    • デイリー
    • 週間
    • 月間

    メルマガ会員登録者の
    ご案内

    メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

    メルマガ登録
    TOPへ