ある男性は20年間にわたり、内縁の妻と生活を共にしていました。女性は専業主婦として男性から財布を預かり、とくに問題なく暮らしていたのですが、女性が亡くなったことで、男性は資産を根こそぎ失いかねない、危機的状況に陥ってしまいます。一体どういうことでしょうか。不動産・相続問題に強い山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

内縁関係の夫婦、亡き妻の口座から預金が引き出せない

筆者の事務所に、ひとりの男性が相談に訪れました。亡くなった内縁の妻の財産について、非常に困った事態になっているということでした。

 

井上さんとおっしゃるその男性は、数ヵ月前に亡くなった内縁の妻である恵子さんと、20年ほど前から一緒に暮らしていたそうです。ふたりはともに離婚歴があり、最初の結婚に懲りたことから再婚には消極的で、入籍しない事実婚を選択しました。

 

井上さんと恵子さんの間には子どもがいませんが、恵子さんと前夫との間には2人の子どもがいます。しかし、恵子さんが井上さんと一緒に暮らしはじめたころから、子どもたちとの交流は途絶えているそうです。

 

「同居していた20年間、恵子は専業主婦で、私が生活費を渡し、恵子がすべて管理して、貯金もしていました。それらの口座は恵子のものを使っていたんです。ところが恵子が亡くなり、内縁関係だった私には恵子の口座からお金を引き出すことができません…」

 

このままでは、井上さんが稼いできたお金は、会ったこともない恵子さんの子どもたちのものになってしまいます。なんとかお金を取り戻すことはできないでしょうか?

状況は「名義預金」とほぼ同じだが…

このようなケースの場合、原則として、相続時点での預貯金の名義は内縁の妻になっているため、預貯金は内縁の妻の財産だと認定される可能性が非常に高く、内縁の妻の財産と認められてしまうと、その財産は相続で内縁の妻の子どものものになってしまいます。

 

せめてもの抵抗をするには、お金の流れを洗い出し、その財産は元々井上さんのお金であったことを証明し、主張するしかないのですが、井上さんがお金を取り戻すのは原則論から考えると、とても難しいといえます。

 

この件で、税務調査でしばしば問題になる「名義預金」を思い浮かべる方も多いと思います。よく指摘されるのが、専業主婦である妻が夫のお金を自分の名義として積み上げるケースですが、名義預金とみなされるのは税務署がそのように判断するからであり、私人同士で争う際に、資産が名義預金だと認められることはまずありません。

内縁関係の相続問題は、トラブルのリスクが極めて高い

井上さんにとっては厳しい状況ですが、本来、籍を入れた配偶者であれば、ここまでの問題に発展することはありません。しかし、内縁関係の場合は「内縁を選んだのはあなたたちでしょう?」という、自己責任論になりかねないのです。

 

法的にいえば勝ち目の薄いケースですが、井上さんの場合、恵子さんの子どもたちに確認をとったところ、「20年も交流がなかったので、いまさら面倒なことには関わりたくない」「財産もいらない」という話になったため、弁護士である筆者が間に入り、金銭の流れに不正がないことを説明しつつ、相続手続きを進めることになりました。

 

経過報告の際、井上さんにそのことをお話しすると、心の底から安堵された様子でした。

 

しかし、仮に正規の相続人である恵子さんの子どもたちが「相続する」と主張した場合、井上さんが財産を取り戻すのは非常に難しかったと思われます。

 

このように、内縁関係での相続問題は難航するケースが少なくありません。困った事態を防ぐためにも、生前からの対策をおすすめします。

 

 

(※登場人物の名前は仮名です。守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所

代表弁護士 山村暢彦

 

 

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