(※写真はイメージです/PIXTA)

認知症を怖がる人が多いのはマスコミの報道の仕方に問題があります。ニコニコと笑顔で好きなことをして毎日を穏やかに生活している認知症の高齢者はニュースになりません。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

身体も自立し、自由に動けるのは70代

森於菟は、小説家で医学者でもあった森鴎外の長男として生まれました。森鴎外は数え年の61歳で亡くなっています。森於菟は文学者にはなりませんでしたが、医学者となり大学の教授などを務め、ようやく定年退職をして、73歳のときに「耄碌寸前」という文章を書いています。

 

森於菟が大学を退任したことで、世間の人は「今から好きな研究がお出来になりますね」と言ってきますが、自分は耄碌(もうろく)寸前なのだ、と訴えます。

 

<今から老の短日を過すために、世間の老人並に草花をいじろうと思っても、その草花の名が覚えられるかすら覚つかない。暇つぶしに人の好んでやる碁将棋の類は天性はなはだ不得手で慰みにならない。どうやら、これからの私は家族の者にめいわくをかけないように、自分の排泄機能をとりしまるのがせい一杯であるらしい。>

 

ひと時代前の話なので、73歳はいまの80代と考えていいのかもしれません。森於菟はどうにかこうにか体裁を保ってきましたが、記憶力も集中力も衰えたことを書き、父のような天才は早死にしたほうがいいが、凡庸な自分は気が楽だと言います。

 

<私は世間になんらのきがねもいらない。安んじて耄碌現象をたどろうと思う。そして人生の降り坂の終着駅たる墓場に眠る日を待つのだ。>

 

耄碌していくのは仕方がありません。どんな人でも耄碌していきます。そして行きつく先は同じです。

 

私たちは自分の死を考えたくない、目をそらしたいと思うものです。気持ちが落ち込むからそのいつかのことは、考えたくはないのです。ただ、死だけは誰にでも平等にやってきます。

 

その死は、そんなに先の話ではありません。10年後か20年後か、100歳まで生きても30年後には来ます。30年もあるじゃないかと思っても、身体も自立しもっとも自由に動けるのは70代です。

 

だから、この70代は自分らしく生きてみたいと誰でも願うはずです。

 

桜を一日眺める、競馬場で馬を見る、森於菟と違って草花や碁将棋が好きな人もいるでしょう。女性でしたら、一日気兼ねなく韓流ドラマを見られると喜んでいる人もいます。

 

見栄とか世間体は少し取り外してみましょう。大事なのはあなたの中にある楽しさです。70代の退職者が何をしようと、世間は気にもとめません。ひとりの人間になって、もう一度世界を見てみるのもいいかもしれません。

 

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長

 

 

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本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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