「プーチンのウクライナ侵攻」を予言していた書籍があります。ジョージア侵攻やクリミア併合など、軍事的な成果がプーチン大統領の人気を支えてきました。その一方でプーチン大統領は「強いロシア」のノスタルジーと過去の栄光を取り戻したいという国民の願望を利用してきました。なぜ、プーチン大統領はウクライナに侵攻したのか。フランスのエリート必読の書である『グランゼコールの教科書』には何が書かれていたのでしょうか。

プーチンが利用した「強いロシア」のノスタルジー

事実、プーチンは統一ロシアを立て直す土台をすでに見つけ出している。それは絶大な「強さ」へのノスタルジーだ。民主主義がなし崩しにされているという不満をそらすために、プーチンはかつてのロシアに対するノスタルジーと過去の栄光を取り戻したいという国民の願望をあからさまに利用している。世界という舞台でのロシアのキャプティス・ディミュニシオ(地位の低下)を苦々しく思っている多くのロシア人は、プーチンのこのやり方に無関心ではなく、むしろ支持しているように思われる。

 

第二次世界大戦での勝利の後、1945年に衛星国として支配下においた国々への影響力を1990年から1991年にかけて次々と失うと、ロシアの指導者たちは、こうして手放してしまった「近くの外国」に、少なくとも競争相手のアメリカが居座らないことを望んだ。

 

ワルシャワ条約機構〔冷戦期の1955年に、ワルシャワ条約にもとづき、ソビエト社会主義共和国連邦を盟主として東ヨーロッパ諸国が結成した軍事同盟〕の旧加盟国の大半がNATO(北大西洋条約機構)〔アメリカ合衆国を中心としてアメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国によって結成された軍事同盟〕に加入したため、ロシアにとって欧米諸国は挑発者にしか見えない。

 

アメリカ政府と同様、冷戦時代のイデオロギーにいまだに毒されているロシア政府にすれば、この状況はほとんど攻撃されているかのように感じられるのだろう。

 

確かに、旧ソビエト連邦構成国のなかには、共産党体制崩壊後の新しい枠組みを形成するために、アメリカの財団の影響や、資金提供まで受けた例が少なくなかった。ソロス財団が旧人民民主主義諸国に新しい教育機関を創設したのはその一例である。民主化運動を支援するために、レーガン政権が東欧の2国に送り込んだ、アメリカで生まれ、アメリカで教育を受けた指導者たちはワシントンのトロイの木馬だと受け取られた。

 

たとえば、ウクライナで財政が破綻したときに、経済の立て直しを託されたナタリー・ジャレスコは、シカゴ生まれのアメリカ人だ。米国務省に勤務した後、ホライズン・キャピタル投資ファンドの共同創立者として代表に就いたこの女性がウクライナの財務相に任命されたことは、違法性がないとしても、アメリカの干渉であり、ロシア政権には耐え難い屈辱と受け止められた。このウクライナの出来事には、多くの人々が考える以上に尋常でない複雑な問題があるだけになおさらだ。

 

後年、ウクライナとロシアの間に深刻な紛争が起こったのを見れば、多くのウクライナ人がロシアを敵とみなし、ロシアの厳しい監督下で生活したくはないと思っていることがわかる。とはいえ、少なくともロシアにとっては、ウクライナは国家の歴史の発祥の地であり、キーウがロシア最初の首都だったことは忘れがたい事実である。第二次世界大戦中に共産党指導者スターリンがクリミア・タタール人を強制的にクリミア半島から追放したことが事態を一層複雑にした。

 

紛争の永続的な決着には時間と対策、長い交渉を要するだろう。今のところ、どんな解決策が選択されるか予想することはできない。状況が危険であればあるほど、国民のフラストレーションは高まり、一つの国が団結しつづけることが困難になる。フラストレーションを利用すれば大きな危険を招きかねない。
〔編集部注:2022年2月24日、ロシアはウクライナに対して侵攻を開始した。同5月末日現在、解決に至っていない〕

 

ジャン-フランソワ・ブラウンスタン
パリ第一大学教授

 

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    本連載はジャン-フランソワ・ブラウンスタン著『グランゼコールの教科書 フランスのエリートが習得する最高峰の知性』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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