※画像はイメージです/PIXTA

相続税の税務調査において、論点になるもののひとつが「名義財産」であり、線引きが曖昧なだけに判断は難しいとされます。そこで相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の山田浩史税理士が、過去の裁判例をもとに、どのように判断されるか解説していきます。

④贈与の事実はあるか?

お金の出所が故人であるにもかかわらず家族などの名義人の財産であると結論付けるためには、贈与があったことを主張しそれを税務署に認めてもらうしかありません。

 

民法では、贈与はあげる人の「財産をタダであげます」という意思表示を、もらう人が受諾することによって効力が生まれるとしています(民法549条)。つまり口頭でも成立しますが、相続税の税務調査の場面では、言うまでもなく贈与当事者の一方が死亡によりいないため、口頭での贈与があったことを立証することは極めて難しいこととなります。

 

また、書面によらない(口頭)贈与の場合、履行が終わったものを除いていつでも解除ができるという不安定さがあり(民法550条)、ある裁判では、故人が自身のお金を原資として相続人名義の定期預金を作成し証書を生前に渡していたものの(贈与契約書はない)、届出印が死亡時点でも故人の管理下にあった([履行=財産の確定的な移転]がされていなかった)と判断されたことにより贈与が認められなかった事例があります。

 

以上を踏まえて、贈与の事実を認めてもらうためには、下記のような備えがあるかどうかの確認が肝要です。

 

・ 贈与契約書を作成する(できれば、自署・実印による押印。欲を言えば公証役場での確定日付あり)

・ 贈与契約書がない場合は、客観的に贈与があったことを強く推測できるような書類(通帳等に「OOへ贈与」などと記載したメモや日記等)を残しておく

・ 口座間での資金移動を行うなど贈与当事者間で財産の確定的な移転(贈与の履行)があったことを見える化しておく(現金の手渡しはやめる)

・ 預貯金であれば、通帳・印鑑・キャッシュカード等を名義人が保管しておき、名義人が自由にお金を動かせる状態にしておく(上記②管理・運用等の要素を満たす)

・ 贈与した財産の価格が110万円超であるならば当然に贈与税の申告を行う

 

⑤故人と名義人・②③の人とはどのような関係性か?

故人のお金であるにもかかわらずなぜ名義や管理・運用等を行う人が家族になっていたのかということですが、それが妻なのか子供等なのかによって意味合いが異なることになります。

 

ここでは財産が妻名義になっていることによる注意点について言及します。

 

まず、②の管理や手続面についてです。ある裁判では、「夫婦間においては、妻が夫の財産を妻名義にして管理及び運用をすることがさほど不自然であるとはいえないことから、これを殊更に重視することはできず、(管理・運用を妻がしているからといってその財産が)妻に帰属するものであったことを示す決定的な要素とはいえない」という見解が示されています。

 

つまり、妻名義である場合には、②や③が妻でも「これは故人の名義財産ではなく妻の財産です」という主張が比較的通りにくいことが分かります。

 

次に、いわゆるへそくりの預貯金についてです。

 

夫から妻に渡された生活費を妻が節約し余った部分が蓄積されているケースは多いと思います。お金の出所が夫なので夫の相続の際には、税務調査において名義財産としてのターゲットになりやすい代表例です。納税者としては、「余った部分はもらったもの」として贈与を主張するのがいわば定番の切り返しにはなるのですが、果たしてこの贈与の主張は通用するでしょうか。

 

実際の裁判でも納税者が贈与を主張したところ、「生活費の余剰分は自由に使って良い旨言われていたとしても、渡された生活費の法的性質は夫婦共同生活の基金であって、余剰を妻名義の預金等としたとしてもその法的性質は失われないと考えられるのであり、このような言辞(げんじ。余ったものは自由にして良いというやり取り)が直ちに贈与契約を意味してその預金等の全額が妻の特有財産となるものとはいえない」等として贈与は認められず相続財産と認定された事例があります。

 

すべてのへそくり預貯金について相続財産となってしまうことを示唆するものではないと考えますが、以上のことからお金の出所が故人(夫)である妻名義の財産を妻に帰属する財産であると認めてもらうのは比較的ハードルが高いため、④で述べたような贈与があったことを税務署に納得させるための備えが鍵になります。

 

まとめ…裁判例はあくまでも参考に

5つの要素について解説をしましたが、最終的にはあくまでこれらを総合的に勘案して判断することになりますので、「5つのうち4つをクリアしたからOK」「5つのうち1つしかクリアしていないからダメ」ということではありません。

 

各事案の内容は個々に千差万別で裁判事例とまったく同じものは存在しませんし、税務調査は行われても裁判まで行かなかった事例の方が圧倒的多数ですので、実際には裁判例から見えるこれらの要素を参考としつつも、税務調査の立会経験を通じて培われた折衝力が大きな頼りになるのではないかと考えられます。今回の内容が将来の相続に向けた備えや、相続発生後に頼るべき専門家等を検討するにあたっての参考となれば幸いです。

 

 

税理士法人ブライト相続

山田 浩史

 

 

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