(※写真はイメージです/PIXTA)

「まだ大丈夫と思いたい。でも、知っておけば準備できる。」高齢者認知症外来・訪問診療を長年行ってきた専門医・近藤靖子氏は、書籍『認知症のリアル 時をかけるおばあさんたち』のなかで「自分の家でできるだけ長く過ごすための秘訣」について解説しています。

「認知症のかなり進行したAさん」に医師が驚いたワケ

私たちは、以前、進行した認知症があるのに、とても上手にヘルパーによる介護を受けて暮らしているAさんの訪問診療を行っていました。

 

Aさんは、独居高齢者ですが、1日に2回ヘルパーさんに来てケアをしてもらっています。親戚の人が隣の家に住んでいますが、日中は仕事があり、帰宅してから訪ねてくれます。

 

Aさんの認知症はかなり進行していて、他人との意思の疎通は困難なレベルです。

 

起きている時はニコニコと笑顔でよくしゃべりますが、意味はお互いに通じません。トイレは伝い歩きでほぼ自分で行きますが、時々失禁します。

 

Aさんは自分がデイサービスに出かけるのは嫌がるので、家にサービスを導入するようになりました。何人かのヘルパーさんが毎日順番に来ては、食事を作ったり、部屋を掃除したり、身体保清のケアをし、Aさんは相手が誰でも比較的スムーズにケアを受け入れます。

 

介護サービスがとてもうまく遂行できていて、私たちがいつ訪ねても部屋は綺麗に掃除されており、Aさんも清潔な服を着て、テーブルにちょこんと座っていました。

 

家族に直接介護されず、施設にも入らず、こんなに快適に自分の家で暮らせるなんて、と私には驚きでした。

 

穏やかで時間が止まったような日々が数ヵ月続きました。ところがある日、Aさんは部屋で倒れているところをヘルパーさんに発見されました。すぐさま病院に救急搬送され入院治療を受けましたが、3日後に死亡しました。ピンピンコロリの見本のような最期でした。

 

こういう最期は、希望してもなかなか実現しませんが、自分の家でできるだけ長く過ごすためには、「他人からのケアをスムーズに受け入れる」という資質が大切なようです。

 

 

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近藤 靖子

和歌山県和歌山市に生まれる。京都大学医学部および同大学院卒。 医療に関しては麻酔科、眼科、内科、神経内科、老年内科の診療に従事。1994年家族と共に渡米し、オハイオ州クリーブランドのクリーブランドクリニックにて医学研究を行う。 その後、ニューヨーク州ニューヨーク市のマウントサイナイ医科大学、テキサス州ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターにて医学研究に従事。 2006年末に帰国し、2008年千葉県佐倉市にさくらホームクリニックを夫と共に開院し、主に高齢者医療を行う。

 

(注*)有病率:どこまで増える認知症、朝田隆、臨床神経学 52:962-964,2012

本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『認知症のリアル 時をかけるおばあさんたち』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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