中国政府、ゼロコロナ政策で生じた国民の不満も「封じ込め」…しかし体制内からも疑問の声が

中国政府、ゼロコロナ政策で生じた国民の不満も「封じ込め」…しかし体制内からも疑問の声が

中国政府は、2022年3月初旬から4月中旬に発生したコロナ再拡大に対処するため、厳しい「ゼロコロナ政策」を実施。国民は不満を募らせたが、政府は「デマを飛ばしてパニックを醸成する行為を禁止」と宣言し、言論の取り締まりに執念を見せる。だが、一部体制内からも清零政策を疑問視し、またはこれを批判する動きがある。3~6月初旬にかけ、中国語ネットワークで観察された様々な動きや情報を通じ、中国における本問題の政治・経済・社会面の意味合いを複数回に分けて探る。第3回の今回は、中国政府の執拗な言論統制を追う。

体制内でも意見が交錯

4月下旬、「4月の声(四月之声)」と題した6分間のモノクロ動画が中国ネット上で出回った(図表1)。感染が急増し封城が始まった3月中旬の上海当局の記者会見や担当者の発言、その後の市民の声をそのまま収録したもので、「上海が早く健康を回復するように(上海、早日康復)」と締めくくられており、制作者自身の論評はない。

 

(注)動画の一部。「2022年4月1日、上海金山区、某病院で幼い子供と父母が別々に隔離された」とある。 (出所)2022年4月24日付自由亜州電台(在米華僑ネットワーク)
[図表1]「4月の声」動画 (注)動画の一部。「2022年4月1日、上海金山区、某病院で幼い子供と父母が別々に隔離された」とある。
(出所)2022年4月24日付自由亜州電台(在米華僑ネットワーク)

 

ただ当然ながら、封城による物資不足や医療が受けられないことに対する市民の不満や怨嗟の声が主で、動画はすぐにネットから削除され、関連ワードの検索もできなくなった。

 

制作者自身が「自分は上海で生まれ育った上海人で、何が起こったかを客観的に記録することが目的だった。しかし、動画は自分の予想を超える速度、範囲で拡散し、また制作した意図とは異なる反応が多く、自らネットから削除することにした」「自分が拘束されたという噂が出回っているが、全くのデマで自分は普通に生活している。公安関係者など誰からも自分のところに連絡はない」と述べているとの情報もある。

 

動画自体は必ずしも当局批判というものではなく、親中で知られた華字誌多維新聞も、動画の内容とネットから削除された事実を紹介しつつ、動画自体を掲載した。

 

なお多維は動画掲載の3日後突然、「内部新聞業務の調整」を理由に発刊を停止(図表2)。1999年に華僑がニューヨークを拠点に立ち上げ、2009年に香港実業家が買い取り、拠点を北京や香港に移していた。親中だが反習とされる江沢民・曾慶紅派(江曾派)に近く、香港実業家の本体会社の経営悪化も伝えられていた。ただ発刊停止の主因は経営悪化ではなく、中南海(北京中心部にあり、中国政治中枢の代名詞)の権力闘争の話に深入りしすぎたためとの見方が多い。

 

(注)「香港時間2022年4月26日より、多維新聞のサイト・APP等は内部新聞業務調整のため、読者友人各位に別れを告げる。長年にわたり、ともに歩み関心を持っていただいたことに感謝する」とする通告。 (出所)2022年4月26日付多維新聞サイト
[図表2]多維新聞発刊停止の通知画面 (注)「香港時間2022年4月26日より、多維新聞のサイト・APP等は内部新聞業務調整のため、読者友人各位に別れを告げる。長年にわたり、ともに歩み関心を持っていただいたことに感謝する」とする通告。
(出所)2022年4月26日付多維新聞サイト

 

現在、旧多維サイトのアドレスは、そのまま自動的に同香港実業家が所有するもう1つのサイト「香港01」にリンクされている。多維の従業員の一部がこの「香港01」に移ったと言われている。「香港01」サイトの仕様は多維とほとんど同じだが、簡体文字ではなく、香港や台湾で使用されている繁体文字を使用。また多維にあったような微妙な政治関係記事は少ない。

 

清零政策に対しては、当初から識者の間で「飲鸩(ジェン)止渇」、鸩(羽に猛毒を持つ伝説の鳥)の毒を飲んで渇きを癒す→後先のことを考えない本末転倒の愚策との批判がある(図表3)。

 

(注)空になった冷蔵庫の前で餓死している者にPCR検査をしている図。「清零強制。餓死は死とされない」と題し、「よい知らせだ。彼は陰性だ!」とある。 (出所)2022年4月22日付自由亜州電台
[図表3]厳格な清零政策は本末転倒と揶揄する海外華字誌 (注)空になった冷蔵庫の前で餓死している者にPCR検査をしている図。「清零強制。餓死は死とされない」と題し、「よい知らせだ。彼は陰性だ!」とある。
(出所)2022年4月22日付自由亜州電台

 

4月、上海財経大学公共経済管理学院院長が全26名の連名で封城政策見直しを建議し、中国工程院の著名衛生学者が「動態清零は長期的には維持できない。秩序立てて再び開放していくべき」とする英語論文を発表。院長は全人代代表でもあり、衛生学者は習氏側近の1人とも言われる。体制内から批判が出始めたことを示すものだが、いずれも発表後ほどなくネットから削除された。

 

5月政治局常務委が「認識不足、準備不足、活動不足などの問題、軽視、どうでもよい(無所謂)、独りよがり(自以為是)などの考え方を断固克服」とし、また丁薛祥氏(習氏が上海党書記時に秘書長だった習氏側近の1人)が主任を務める党中央弁公庁が、「引退した元幹部は党の話を聞き、党とともに歩むこと、習新時代理論を深く学ぶこと、党中央の大政方針に対し筋の通らない建議(妄議)をしないこと」などとする意見を発出したことは、地方指導部や元老の間にも清零に疑問を持つ者がかなりいることをうかがわせる。

 

その後、「人民至上、生命至上を貫き通す(貫穿始終)」という習氏が好んで使う常套句に関連付け、清零は経済や生活への影響を考えると「人民至上」に反するとの著名学者の意見が出る一方、環球網は「生命至上を力強い掛け声にして動態清零堅持」、「動態清零:人民至上、生命至上の最良の証明・説明」などとする論評を掲載するなど、意見が交錯している。

 

次回は、清零政策を巡る指導部内の様々な動きを探る。

 

金森 俊樹

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