
経営者の相続対策は、事業をいかにして次世代に承継するかに加えて、個人の財産を相続させることも考える必要があります。しかし相続・事業承継に関係する人は多くなる傾向にあり、トラブルに発展するケースが後を絶ちません。今回は自社株にまつわる問題についてみていきます。
※プライバシーに配慮し、実際の事例と変えている部分があります。
頑として株式を譲らない、欲深い二人の姉
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【登場人物】
Aさん:50代。製造業三代目社長、三人きょうだいの末っ子であり、長男
W子さん:Aさんの妻
B子さん:三人きょうだいの長女
C子さん:三人きょうだいの次女
祖父の代からの問屋業を営むAさん。先代から事業を継いだ時は業績も良く、特に経営について悩むことはなかったといいます。
「当時は、何もしなくても注文がはいって、自然と売上があがる…そんな時代でしたね」
しかし時代の変化とともに徐々に売上は落ちていき、近年はギリギリの経営を続けてきたといいます。そのようななかでも、昨今は四代目候補である息子が先頭となり、新しく始めた事業が少しずつではありますが、軌道に乗り始め、先行きは明るくなってきたといいます。
「わたしの代で会社を潰してしまっては、せっかく頑張ってくれている息子をはじめとした次の世代の子たちに申し訳ないですからね。いまが踏ん張りどころです」
少しでも経営を上向きにしようと、日々、走り回るAさん。ほかの従業員からも心配されるくらい、仕事漬けの毎日を送っていました。
そんなAさんには、気がかりなことがありました。ふたりの姉です。長女であるB子さんも、次女であるC子さんも、昔から何かにつけて欲深く、自分たちの利益ばかりを主張してくるのです。
その性格がよく表れたのが、先代である父が亡くなった時のこと。すでに母は亡くなっていたので、相続人はきょうだい3人。急に亡くなったため、遺言書はありませんでした。そこで法律のとおり、三人で均等に遺産分割を進めよう、ということになったといいます。しかし「懸念となったのが、会社の株式です。分散させるのはよくないので、わたしに集約するように姉たちにお願いをしたのですが……」とAさん。
「これ(=会社の株式)だった、お父さんが遺してくれた財産。お金と一緒でしょ。それをわたしにください、なんて。そんな虫のいいこと、ある?」
何度も説得するも「会社の経営には口出ししないから」と首を縦にふることのなかった二人の姉。その後、確かに口出しすることはなかったといいますが、いつ何が起きるかわかりません。いつか、Aさん自身のところに集約をしたいと考えていました。
その「いつか」は、意外と早く訪れることになります。Aさんが人間ドックを受けた結果、進行性の病気が見つかり、余命宣告を受けたのです。目の前が真っ暗になったというAさん。しかし、時間は待ってくれません。早々に事業承継を進めなければ、会社を潰しかねない……そこで姉たちに事情を話し、株式を譲渡してほしいことを伝えました。
「いいわよ、譲渡金はいくら?」
姉たちから返ってきた答えは、あまりに残酷なものでした。試しに算定したところ、経営に支障をきたすような金額。そのことを含めて姉たちに伝えたところ「それだけの価値があるなら、ちゃんと払ってもらわなきゃ、いやよ」と、またまた残酷な返答が。そのやりとりが、精神的にも辛かったのでしょう。Aさんは体調を崩し、入院することになったといいます。
そのやりとりに怒り心頭となったのが、Aさんの妻であるW子さん。二人の姉を会社に呼び出しました。
三人が話しているのは、大勢の従業員がいる隣のスペース。
長女「なに、今日は。わざわざ、会社になんか呼び出して」
Wさん「すみません、ご足労いただいて。今日は、主人に代わって株式の話をしたくて」
次女「それならダメよ。Aにも話したけど、ちゃんとしたお金を払ってくれなきゃ」
そのようなやり取りをしているなか、スッとWさんは席を立ち、そして土下座をして大声で訴えました。
Wさん「お願いです! 株式をお譲りください。それでなければ、この会社は潰れてしまいます」
長女・次女「や、やめてよ、みんなが見ている前で!」
W「お願いします!」
突然の出来事に、騒然とする社内。姉たちが土下座をやめるよう言っても、Wさんは「お願いします!」と繰り返します。最終的には二人の姉ともばつが悪くなり、Wさんの要求に応じたそうです。
「土下座のひとつや、ふたつできないと、社長夫人なんて務まりませんよ」とW子さん。そのやりとりを聞いたAさん、あまりに痛快で笑いが止まらなかったといいます。
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