(※写真はイメージです/PIXTA)

「認知症、まだ大丈夫と思いたい。でも、知っておけば準備できる。」高齢者認知症外来・訪問診療を長年行ってきた専門医・近藤靖子氏は、書籍『認知症のリアル 時をかけるおばあさんたち』のなかで記憶のしくみについて解説しています。

30代・てんかん患者「手術により記憶障害が出た」ワケ

カナダに、度重なるてんかんを患っていた30代男性がいました。主治医のドクターが、てんかんの原因部位であった両側の海馬を焼いて除去する手術を行いました。すると、患者のてんかんは治ったのですが、その後酷い記憶障害が出てしまったのです。この患者は、普通にしゃべれるし、理解力もあるのに、新しく記憶することができなくなり、また少し前のことをまったく思い出せなくなってしまいました。

 

記憶には覚えている長さによって3つの種類があります。即時記憶・短期記憶・長期記憶です。

 

即時記憶とは耳で聞いた数字などをすぐさま復唱する記憶で、その後記憶としては残りません。短期記憶(近時記憶)とは数分から数時間、数日くらいの比較的短い期間の記憶です。そして長期記憶(遠隔記憶)とはもっと長い、何年とか何十年前の記憶のことです。

 

この患者では、短期記憶だけが障害されてしまいました。即時記憶と、昔のことを覚えている長期記憶は保たれていました。短期記憶は海馬に蓄えられますが、長期記憶は脳の皮質などのほかの部位に広く分布するようになります。だから、海馬だけ障害を受けた患者では、長期記憶に関しては問題ありませんでした。

 

また、短期記憶が長期記憶として貯蔵されるためには、記憶固定の時間と新しい蛋白の合成が必要となります。つまり、より複雑な過程であると推測されます。

 

「逆行性健忘」と言って、頭部に強い衝撃を受けると、その前に起きたことを忘れてしまう病態があります。この記憶障害は小説やドラマなどでもしばしば出てきますが、そのメカニズムはあまり知られていません。実は、衝撃直前の一定期間の出来事は、短期記憶から長期記憶に移るプロセス時に障害を受けるために、長期記憶として残らずに失われてしまうそうです。

 

また、アルツハイマー型認知症では、進行すると短期記憶だけではなく、長期記憶も失われますが、それは大脳皮質にも病気が広がり、長期記憶を蓄える神経細胞も失われるからです。

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    本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『認知症のリアル 時をかけるおばあさんたち』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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