心が壊れていった…超元気だった母が、90歳で認知症に。認知症介護のリアル【医師の実録】

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心が壊れていった…超元気だった母が、90歳で認知症に。認知症介護のリアル【医師の実録】
(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化に伴い、認知症の患者が増えている日本。2025年には65歳以上の5人に1人が発症するとの推計も出ており、誰もが認知症介護を経験しうる時代になりました。TVでもおなじみの新見正則医師が、自身の経験を基に「認知症介護のコツ」を解説します。

90歳まで超元気だった母が、認知症に

母は8年前に95歳で他界しました。90歳までは超元気で、このまま100歳まで生き抜くのではと家族全員が思っていました。ところが、この頃から認知症が始まりました。大正生まれの凛とした女性でした。日頃から、格好よく死にたいと口にしていた母です。ところが、母の希望とは異なり、心が壊れていって、そして天国に逝きました。

 

自宅で母を入浴させるのは一大イベントでした。僕と当時は幼稚園生だった娘が一緒にお風呂に入って、母の体を洗い、そして頭を洗います。家内は外でバスタオルを手に待っていて、足腰が弱くなって、自分では思うように動けない母を僕達から受け取り、体を拭いて、リビングに連れて行きます。そのリビングで母は家内に、「あのお風呂で一緒だったオヤジさんは誰だったかね?」と尋ねました。「あなたの息子でしょ!」と家内が答えると、キョトンとしていました。

 

今の僕がわからない母でしたが、家内が子供の頃の写真を見せると、「これは息子のまさのりだね」と指差します。認知症になる前の母は、「ちょっと貧乏だったけど、苦労して子育てをした頃が、実は一番楽しかった」とよく語っていました。母の頭の中の僕の記憶は子供の頃のイメージが強いのです。そして認知症では新しい記憶から薄らいでいくのです。

 

そんな認知症の母の介護と、医師としてたくさんの患者さんを拝見してきた経験から、還暦を過ぎた僕が自分の認知症介護のコツをこのコラムでちょっとお話しますね。

まずは認知症の進行防止しましょう

認知症は病気です。でも本人にはあまり自覚はありません。むしろ母が元気な頃は、「最近は物忘れが激しいから、わたしも認知症予備軍かな」とか語っていました。まだまだ自分自身を評価できる段階です。こんなときは、「本当の認知症にならないように、いろいろ努力しましょう」と励ましましょう。

 

基本的に会話が大切です。井戸端会議でたわいないことを話すことが認知症の進行を遅くします。指先を使うことも大切です。料理、お裁縫、楽器の演奏、盆栽などなど、できるもの続けましょう。

 

そして歩くことです。足腰が弱くなって、歩かなくなると認知症の進行スピードが速まります。毎日の散歩を励行し、散歩ができないときは、家の中でいいので自分で動けることをしっかりやりましょう。

認知症が始まると、本人は悟られまいと取り繕う

認知症が始まると、自分が壊れている姿を隠したくなるので、上手に繕うようになります。母は読書が大好きでした。読書は認知症の早期には進行防止に役立ちますが、ある程度進むと読書ができなくなります。でもそれを隠したいのです。

 

本屋に母と一緒に行って、母の好きな書籍を購入するのが家族の楽しみという時期もありました。ところが、母は読んでいるふりをしているだけで、実はまったく読んでいなかったのです。

 

母は書籍に赤鉛筆で気に入ったフレーズに線を引いて読んでいました。あるとき、家内が母の部屋の片付けをしていると、まったく綺麗な状態の本がたくさん積んであるのを見つけました。でも母はそれらの本を読んでいると語っていました。

叱っても致し方ない

次に火の不始末、鍵のかけ忘れなどなどが起こりました。そのたびに、僕は母を叱責していました。叱れば改善すると思っていたのです。大きな声で叱ったこともあります。母はしょげていました。そんな叱責は実は無意味でした。叱ってもできないのが認知症です。そんな行為は病気のためだと理解できるようになりましょう。叱っても決して認知症は改善されません。

最期の過ごし方を話し合っておきましょう

認知機能が低下し始めたら、将来を語っておいたほうがいいです。子供が小さい頃から、わが家では死の話はタブーではありませんでした。わが家は無宗教ですが天国はあると思っています。死ねば天国に行って、僕達が死んだらそこでまた会えるとわが家は思っています。そんな会話の中で、母は「食べられなくなったら点滴も、胃瘻(いろう:胃に穴を空けて栄養を入れる)もして欲しくない!」と語っていました。

 

そんな母の希望は叶えられました。認知症が進み、転倒し、大腿骨を骨折して寝たきりの生活になり、家内がトロミをつけた食事を口に運ぶ生活が始まりました。最後は水もトロミをつけて飲ませました。トロミがないとむせてしまうのです。そして体重はどんどんと減り30kgを下回りました。そんな水だけの生活が約半年続きました。点滴をしないので、どんどんとカラカラになるのです。点滴をすると水でブクブクになります。

 

そんなカラカラになった母の横で娘と愛犬(ビションフリーゼ)は寝ていました。ある日の朝、母は旅立ちました。娘と愛犬は冷たくなった母の横で一晩寝ていました。菩薩さんのような顔でした。

周囲にちょっとは迷惑をかけなさい

認知症の介護は大変です。僕は人に「助けて」と言うことが大切と思っています。人にはちょっと迷惑をかけてもいいと思っています。すべて自分一人で解決しようと思わずに「ヘルプ」と叫んでください。人にちょっと迷惑をかけていると思うと、人の迷惑も許せるようになります。今度はお互いさまと思って、人のヘルプに答えればいいのです。

 

「他人に迷惑をかけないように!」という教育は、実はこの歳になって間違っていると感じています。「人はみんな他人に迷惑をかけているでしょ。だから、ちょっとした人の迷惑は許してあげましょうね」と思っているのです。

介護施設は元気なうちから通いましょう

認知症が進めば、介護施設にお世話になりましょう。母も介護施設をたくさん利用しました。そしてわが家でも介護をしました。介護施設には元気なときから通ったほうがいいと思っています。まだ介護施設にお世話になる段階ではないと頑張るよりも、将来を見据えて、早くから介護施設を利用すれば、本当に困ったときにもスムーズに利用できるようになります。

日頃から感謝して生きていきましょう

人は死にます。遠くの親戚は、「できる限り医療を施してください」と無責任なことを言います。本当に介護をしている人は、天国に送ってあげたいのです。

 

医療は産業です。患者は顧客です。早く天国に逝けば、顧客を失います。「お任せします」と家族が言えば、医療サイドの当然の倫理観と経営的視点から、長生きさせることが選ばれます。僕は胸を張って「何もしないでください。天国に逝く時です」と言うことが大切と思っています。

 

亡くなると、嫌な思い出はすぐに消えます。人はみんな死にます。自分が死ぬときも、天国に逝く際には、潔く「ちょっとお先に」とお世話になった方々に言いたい。そのときは言えなくても日頃から感謝して日々を生きていきたいと思っています。

 

 

新見 正則

新見正則医院 院長

オックスフォード大学医学博士(DPhil)

外科専門医・指導医/消化器外科専門医・指導医/漢方専門医・指導医など

 

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