(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2022年6月27日に公開したレポートを転載したものです。

「円キャリートレード」の活発化と限界

日銀も投機筋に敗れるという思惑は低金利の円で資金を調達し、高いリターンの外貨資産に投資する運用、つまり円キャリートレードを引き起こし、日本国債売り、円売りの連鎖を引き起こしている。これに弾みがついたことで円安が加速する局面がしばらく続いていくかもしれない。

 

しかし金利差と為替レート差の両方で利益が得られるダブルキャリーの状態は永遠には続かない。

 

第一に、ドル円レートは購買力平価から4割も乖離した史上最安値状態にあり、いつでも高所恐怖症を引き起こすレベルにある、

 

第二に、米国の金利上昇を引き起こしているインフレもすでにピークアウトの状態、これ以上の日米金利差拡大は起きないかもしれない、

 

第三に、そもそも円安は本質的に日本経済と雇用・投資にポジティブであり、2%のインフレ定着を目指す日銀が円安を止めなければならない理由にはない、特に参院選挙が終われば、選挙政策としてのインフレ・円安対策の重要性は下がってくる、等の事情がある。

 

円高への反転リスクも相応にあり、ここで円安にベットする戦略が大きな趨勢になっていくとは思われない。

高まる「バフェットキャリー」への期待

ブルーベイ・アセット・マネジメントのポジションの問題は、日本国債ショートにあるのではなく、円キャリーにある。2%のインフレターゲットが実現し、日銀がYCCを停止する時期はいずれ訪れる。

 

とすれば10年債利回りはYCC上限の0.25%を大きく下回る可能性は小さく、長期的にはYCCが変更されて0.25%を上回っていく可能性が高い。0.25%で10年国債をショートする(=調達する)ポジションは的外れとはいえない。

 

問題は日本国債ショートで調達した資金をどこで運用するかである。外貨資産ではなく、日本国内のハイリターンアセットに回せば大いなる利益を得られる可能性が出てくる。これを(運用スタイル、投資期間の違いはあるが)バフェットキャリーと呼んでみよう。

 

それまで一貫して日本株投資に後ろ向きであったW・バフェット氏は2020年8月、約60億ドル(6,400億円)を投じて大手商社5社(時価総額合計14兆円)の5%を取得した。

 

2020年8月末、5大総合商社の株価は、640~2,724円だった。現在の株価が1,216~3,959円である5大総合商社投資分の評価金額は1兆円を超え、投資して2年足らずで2倍近いパフォーマンスを実現したとみられる。

 

バフェット氏の投資資金は2019年9月、2020年4月の合計6,255億円の円建て債発行で調達されている。

 

そのコストは平均ゾーンの10年債では利率0.44%、それに対して商社各社は配当利回りだけで4~6%、という超ポジティブキャリーの状態にあった。これに資源価格急騰に連動した株価の値上がり益が加わり、大きな成果が得られた。

 

円資金調達、円資産投資というバフェットキャリーの有効性を証明したといえる。

 

これからバフェットキャリーの運用対象として有望なのは、不動産、J-REIT、日本株(特に高配当のバリュー株)であろう。ブルーベイ・アセット・マネジメントは日本国債ショートで調達した資金を高いリターンを持つ日本資産に振り向ける運用に踏み切るかもしれない。

 

まずはグローバル投資家の円資金調達による不動産投資が期待される。日本の不動産価格は世界の趨勢からかけ離れて低迷しており、他国に比し著しく割安になっている。また2010年以降の金利低下趨勢のなかでもキャップレート(投資事業利益/不動産価格)は高水準を保っており、金利との乖離が拡大、相対的投資魅力が高まっている。

 

[図表3]各国実質住宅価格推移
[図表3]各国実質住宅価格推移

 

[図表4]J-REITのキャップレート推移
[図表4]J-REITのキャップレート推移

 

実際、海外からの不動産投資需要が高まっている。[図表5]は2020年10月~2022年3月に決済された10億円以上の国内不動産案件の集計による投資額上位20社であるが、そのうち10社が海外投資家(大半がファンド)となっている(東洋経済6月25日号)。これらの多くが円での資金調達をしていると推察される。

 

[図表5]コロナ禍下での日本不動産投資額上位20社
[図表5]コロナ禍下での日本不動産投資額上位20社

 

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