(※画像はイメージです/PIXTA)

近年、一般庶民も無縁といえなくなった「相続税」の問題ですが、なかでも「不動産はあるが、現金がない」というケースはトラブルになりやすく、注意が必要です。筆者が駆け出し弁護士だったころに扱い、遺産分割調停に至るまで揉めに揉めたものの、想定外の打開策が見つかったケースを紹介します。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

「法定通りに遺産分割すれば、自宅を失ってしまう」

ひとりの男性が、疲れ果てた様子で筆者の在籍する法律事務所へ訪れました。

 

「父が亡くなって相続が発生したのですが、2人の弟ともめてしまい、困っています。弟たちは弁護士を立ててきて、私だけでは対処できません」

 

話を聞いたところ、相続財産がほとんどすべて不動産であるため、3人の相続人への平等な相続が難航しているというのです。

 

相談者の方は土地持ちの長男で、結婚後もずっと両親と実家で同居してきたそうです。ふたりいる弟さんは、いずれも就職時に独立、結婚後は他県に生活拠点を移し、そこにマイホームを建てています。相談者の方の母親は3年前に亡くなっています。

 

相談者の方の父親は地主の末っ子で、不動産を複数所有していましたが、一方で、今回の相続人となる3人の息子たちの教育資金や、夫婦の老後にお金を使い、現預金はほとんど残していませんでした。

 

保有している不動産は、相談者の方が今も暮らす実家、そして築年数・規模・収益が異なる2棟の賃貸アパートです。

 

「長男である私は、ずっと実家で両親と同居し、面倒を見てきました。父が所有するアパートも実家の近くで、これらも管理を任されてきたのです。弟たちは実家を離れていますから、不動産はすべて私が相続したいと考えています」

 

長男は不動産を相続したく、二男と三男は不動産ではなく現金を希望するということで、遺産の分割方法は同意ができていました。問題は、2人の弟に支払う「代償金」の準備です。相続財産には、ほとんど現金がないのです。

 

二男と三男は、不動産の評価額の1/3に該当する金額は、キッチリ払ってもらいたいと主張しています。

 

生活拠点である実家を手放したくないのは当然なのですが、2棟のアパートのうちの1棟は築古で収益が低く、今後のメンテナンスにも多額の資金が必要です。収益物件として機能しているのは15年前に建築された1棟のほうで、2棟とも手放しても、代償金の支払金額には届きません。2人の弟が主張する代償金を支払うには、自宅不動産を売却する必要があります。

弟たちが立てた弁護士に「不動産売却」を迫られ…

代償金の捻出は非常に頭の痛い問題でした。数字に基づき不動産評価額を算出し、1/3に該当する金額を弟たちに支払う…という方法は現実的に難しく、また、相談者の方はすでに定年退職していて、金融機関から資金を借りることもできません。

 

筆者は、不動産価格の再評価や、長男家族の両親への介護の寄与分を算出するなど、あらゆる方法を検討しましたが、不動産をすべて相続して代償金を払うのは無理といわざるを得ない状況でした。

 

弟たちの弁護士からは、不動産の売却による代償金の捻出を提案されました。筆者も手詰まりとなってしまい、頭を抱えましたが、親の介護に尽くして60歳を超えた依頼者が、住まいを追われるのはつらすぎます。家を手放せば賃貸マンション等に住み替えるしかなく、もしアパートを手元に残せたとしても、修繕費や賃借人募集の費用が必要であり、いずれにしろ金銭的な不安が残ります。

不動産会社社長の提案が解決策に

ところが、筆者が眠れないほど悩んだこの案件に予想外の解決策が見つかりました。

 

事務所で相談者の方と打ち合わせをしていたところ、たまたま共通の知り合いの不動産会社の社長が来訪したのです。

 

話の流れで不動産会社の社長に事情を説明したところ、意外な言葉が出てきました。

 

「それなら、いまの家を建て直して賃貸併用住宅にしてはどうですか?」

 

賃貸併用住宅とは、建物のワンフロアをオーナーの住居とし、ほかのフロアに1ルームアパートを複数作って賃貸に出すスタイルの建物です。

 

賃貸併用住宅は、賃貸部分の収入で建築費等を返済していけるほか、実家を賃貸併用住宅に建て直す際、相手方に支払う代償金についても、銀行から融資が引けることが判明しました。

 

賃貸併用住宅には「事業用ローン」が使えるのですが、これは住宅ローンとちがい、物件の収益性で融資判断を行うため、高齢でも融資を受けることが可能です。建築費の支出は賃貸部分から回収します。

 

当時は融資情勢がよかったのも幸運でしたが、たまたま通りかかった不動産会社の社長の提案で、すべてが収まるべきところに収まったのは驚きでした。

 

最初は筆者も半信半疑だった社長の提案ですが、数字を詳細に検証したところ、これ以外に方法がない良策だとわかり、思わずうなりました。法律だけではどうにも対処しきれなかったこの案件が、不動産を活用したことで、相続人全員が納得できる着地となったのです。

 

不動産は相続トラブルになりやすく、ときに親族関係が壊れる原因になることもあります。ところが、工夫次第では「ウルトラC」ともいえる選択肢を編み出せることもあるのです。それこそが不動産の相続案件の特色であり、興味深いところだといえるでしょう。

 

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所

代表弁護士 山村暢彦

 

不動産法務、相続税の税務調査…
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