開業医は高収入であることが多く、個人の資産について税金対策が必要なことはもちろん、医院の資産も相続対象となることから、相続対策をしなければ「個人資産+医院資産」に対して巨額の相続税が課せられることになります。そこで、多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が、開業医が50代から始められる「相続対策」の具体的な方法を解説します。

個人版事業承継税制

個人事業の世代交代をスムーズに進められるよう、2019年から2028年の措置として個人版事業承継税制が規定されました。個人版事業承継税制は一定の条件を満たせば世代交代に伴う贈与税・相続税の支払いが猶予または免除される制度です。 相続税の納税猶予の適用を受けるためには、下記の要件を満たすことが必要です。

 

■納税猶予の適用条件

・先代の事業者が青色申告を行っていること

・後継者の方が事業を引き継ぐ計画を書いた「個人事業承継計画」を作り、2024年3月31日までに都道府県知事の確認を受けること

・先代の事業者が亡くなった後に後継者の方が「円滑化法の認定」を受けること ・事業承継後、後継者の方が青色申告の承認を受けること

・相続税を申告し担保を提供すること

 

これらの要件を満たすことで、相続税の納付が猶予されます。さらに、事業を継続し3年ごとに継続届出書を提出すれば納付猶予が継続されるほか、後継者が亡くなるなど一定の事情があれば申請により相続税が全部または一部免除されます。

 

ただし、個人版事業承継税制にはデメリットもあります。デメリットとしては、事業を廃止した場合などに納税の必要が生じる点、小規模宅地等の特例の適用が制限される点などがあります。

 

最終的にメリットを最大化するために、どの制度を利用するかは医院によって異なります。制度の利用を検討している人は、一度税理士など専門家へのご相談をおすすめします。

「稼ぐ病院」ほど大変…医療法人の相続税対策

医院を経営するにあたって持分のある医療法人を設立している人は、医療法人についても検討しなければなりません。 持分のある医療法人は出資者が医療法人に対し出資の払い戻しを請求できるため、財産的価値があるものとみなされて相続税がかかります。業績が好調な医療法人ほど相続税が高くなって悩みの種になることもあります。

 

医療法人の相続税については、特例措置が設けられています。これは、医療法人について国の認定を受け、担保を提供するなどの要件を満たせば相続税の納付が猶予される措置です。

 

さらに、医療法人の出資持分をすべて放棄するなどの条件を満たすと相続税の納付が全部または一部免除されます。 相続税に悩む人にとって、この特例措置は大きな魅力ですが、デメリットもあります。

 

出資持分を放棄すると、医療法人を解散したり譲渡したりする際に持分に相当する金銭を回収できなくなり、残った財産は国や地方公共団体などのものになってしまいます。 相続税の猶予・免除というメリットと、持分を放棄するデメリットを慎重に検討する必要があります。

 

開業医は、相続税の対策を検討しておかないと、いざというときに大きな税負担がのしかかる可能性があります。その際、節税のことだけではなく医院の世代交代を全体としてどう進めていくか、家族や専門家と十分に相談することでトラブルを回避できるのです。

 

大切な医院を次の世代にスムーズに受け渡すため、いまからしっかり取り組んでいきましょう。

 

 

Medical LIVES/シャープファイナンス
 

 

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本記事は、「医療と生きる人々が、生の情報で繋がる」をコンセプトにシャープファイナンス株式会社が運営する医療プラットフォーム『Medical LIVES』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。