急速な高齢社会化に伴い様々な健康問題が発生する現代日本。人々は介護という課題にいかに向き合うべきか。英国老年医学の母、マージョリ・ウォレンの実例をもとに解説します。

ウォレンが成した「画期的な仕事」

ところがウォレンはここで老人医療にとって画期的な仕事をしたのです。彼女の目標は患者に生きる希望を与え、自立を促すことにありました。「楽観と希望」がウォレンのモットーでした。

 

患者を1人1人診察し、若年者と比較的健康なものは他に移しました。残るものの多くは脳卒中後遺症か下肢切断患者でした。これらに対してまず生活の機能評価を行い、次の5群に分けました。

 

①比較的障害が軽いもの(離床可能)、②失禁はないが、寝たきりのもの、③失禁があるもの、④錯乱状態にあるが、他に迷惑をかけないもの、⑤認知症患者(他の患者と分離)。

 

これは病気による分類ではなく、障害評価による分類です。

 

ウォレンは、まず居住環境を整備しました。病室の壁は明るいクリーム色に塗り替えられ、カーテンやシェードもすべて明るい色に統一されました。階段や廊下には手すりのレールを付け、照明を明るくし、ドアも把手のついたものからスイングドアに替えました。ベッドは低くして卓上テーブルとラジオ用のイヤホーンを設置しました。毛布やベッドカバーなどは魅力的な色合いとし、各患者には専用のロッカーを与えました。各種歩行器、車椅子など、さまざまなリハビリテーション用の機器を開発して利用させました。

 

ウォレンが重視したのは、医療ケアにおけるチーム体制です。看護師、理学療法士、作業療法士、言語療法士、社会福祉士などの協力体制が必要になります。不足しているところはウォレンが自ら教育して補いました。

 

患者の持つ潜在性の能力を最大限に引き出してそれを活用し、障害とされている機能を最低限として自立を促すことが、個々の患者に即したリハビリテーションの目標であるとし、「患者が自分でできることには、一切手出しをするな」、これが鉄則でした。

 

その成果は驚くべきものでした。患者は元気づけられ自立に自信を持ったのです。退院患者が続出しました。

 

こうして病床数は240にまで減少し、余った病床は皮膚科や結核療養病棟にまわされました。退院率は以前の3倍となり、25%に達したのです。多くの医療者が見学に訪れ、高齢障害者に対するウォレンのやり方を学びました。

 

ウォレンは次のように言います。

 

「老年内科医は常に、全人的医療を心掛けるべきである。病気を治すのではなく、病人を癒すのである。したがって老年内科医は、広い領域にわたって研修を受けた医師でなければならない。総合病院では老年科を専門科としておく必要がある。それは他の診療科と連携して診断と治療の実績を上げることができる。また医療ケアの継続を図るため在宅医療を重視し、地域医療との連携をとることが大事である」

次ページ日本の老年医学への切実な課題

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    本記事は、2021年7月刊行の書籍『健康長寿の道を歩んで』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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