ロシア自体はイギリスなど西欧に比べて資本主義の発展度合いは遅れている辺境でしたが、資本主義に組み込まれているのだから、共産主義は実行できるというわけです。ソ連のご都合主義革命はどうなったのか。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

ソ連型社会主義経済の労働価値説の矛盾

労働の投入量は、費やした人の数と時間で測るしか方法がないということで、延べ何人を何時間投入したかが求められます。例えば鉄鉱石や石油は掘り出すコスト、人手は当然かかります。それから機械を投入しますが、その機械をつくるのにどれぐらい人が携わったかとか、要するにすべて人間に帰結するわけです。

 

「人の労働こそがモノやサービスの価値を生み出す」という考え方は哲学としては成り立つと思いますが、これで経済を動かすことは結局できなかった。それは利益動機が働かないからです。人間は欲望の動物だから「これでどれだけ稼げるか」、あるいは資本家や企業は「これだけ人を使ってどれだけ儲けるか」と考えて将来に向けて投資行動を起こします。

 

それが進歩をもたらすのですが、ソビエト型社会主義経済はそれを否定してしまいました。そうなると国民は、しょうがないから決められた労働に従事して、適当にしか働かないという状況になってしまいます。

 

生産性は当然落ちますし、経済成長はもともと否定していますから、経済はどんどん行き詰まり閉塞化していって、なかで暮らしている人たちは大変な思いをすることになります。需要に即した供給ができなくなっていき、食料品や衣料品などの日用品まで、行列しないと手に入らなくなる。ソ連では崩壊するはるか前から、そんな様子がよくテレビで報じられていました。

 

さらにもうひとつ、無駄な生産ばかりやってしまうということがあります。要するに投入量さえ多ければいいというわけですから、最後は生産物の重量でモノの価値を算出していました。消費需要を無視し、「たくさんつくれば高く評価される」「国家計画通り何トンつくったから、これでよし」というふうになる。

 

資本主義市場経済では、モノの価値は市場原理、需要と供給の関係で決まります。これは競争があってこその話です。つまり、より高い品質のものをより安く売らないと買ってもらえないと、供給側は皆努力します。それによって適切な値段に収斂していくのです。

 

だから同じような商品がほぼ似たような値段になっています。

 

例えばペットボトルのお茶、だいたい各メーカーほとんど価格は変わりません。メーカーはすごい努力をして、いいものでありながらも安くなる。だから、消費者の利益にも繋がっていくということになるのです。

 

それがソビエト型社会主義経済だと、不味かろうがなんだろうが「ほら、これだけ作ったんだから、お前ら飲め」ということになってしまう。実際、旧ソ連のビールは瓶のなかに虫が入っていたり、気が抜けていたりと、滅茶苦茶な品質管理でしたが、それが平気で流通され、店頭に並んでいました。

 

競争がないから、品質の向上への努力も何もない。物品の横領などインチキをやったら職場から追放するとか、監督者がクビになるとか、シベリア送りになるとか、罰によってしかコントロールできない状況です。

 

いずれにしても、非効率であり、人々の生活水準を向上させることが不可能で、なおかつ無駄が多いわけです。

 

次ページ成長のない協同体は残酷で悲惨な日常

本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

給料が増えないのも、「安いニッポン」に成り下がったのも、すべて経済成長を軽視したことが原因です。 物価が上がらない、そして給料も上がらないことにすっかり慣れきってしまった日本人。ところが、世界中の指導者が第一の…

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