「老化は『病気』である」米教授の衝撃仮説…「老化」はなぜ起こるのか?【医師が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「老化は人間の運命ではなく『病気』であり、治すことができる」――これは長寿研究の第一人者デビッド・A・シンクレア博士が、自著『LIFESPAN 老いなき世界』の中で唱えた仮説です。一般に「老化=生きる上で避けて通れない変化」と考えられてきたことから、この主張に衝撃を受けた人も少なくないでしょう。では、老化とはどんな現象なのでしょうか? 最新の知見を交えて医学的に解説します。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

■「遺伝子より劣化しやすく、身体への影響力が大きい要因」がある

最近では、遺伝子自体ではなく、遺伝子を取り巻く周りの「情報環境」こそが、老化と関係していると分かってきました。遺伝子を取り巻く情報環境のことを「エピゲノム」と言います。エピとは「近くの」とか「周囲の」という意味を持つ接頭辞です。ゲノムとは遺伝子のことです。

 

このエピゲノムは、どの遺伝子情報を読み取るか否かを決めています。たとえば受精卵が細胞分裂して、赤ちゃんに成長していく過程をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。

 

細胞分裂を繰り返して、私たちの身体ができていく過程を「分化」といいますが、細胞がどのタイミングでどのように分化していくのかは長い間、謎でした。まるで遺伝子の中に分化を調節する時計があるかのように思われていました。しかし、その分化のタイミングを調節しているのが、実はこの「エピゲノム」であることが分かってきたのです。

 

分裂したばかりの細胞にどのような種類の細胞になればいいのかを教えてくれるのです。エピゲノムは分化、成長を調節する「タイムスケジュール」だということができます。

 

今では、さまざまな病気の発症において、遺伝的要因は20〜30%程度で、エピゲノム要因が70〜80%であると言われています。環境要因のほうが大きな影響力を持っているということです。このように、遺伝子の周りの環境が遺伝子にどのような影響を及ぼすのかを研究する分野を「エピジェネティクス」と言います。

 

たとえば、病気になる遺伝子を持っている人がいたとしても、すべての人が発症するわけではありません。病気になる遺伝子が読み取られれば発症しますし、読み取られなければ病気にはならないわけです。そして、この病気になる遺伝子が読み取られるか否かを決めているのがエピゲノム、つまり遺伝子を取り巻く環境要因なのです。

 

病気になる遺伝的要因は変えることはできませんが、環境要因は変えることができます。環境要因を整えて、病気にならないようにしようとするのが「機能性医学」の考え方です。

 

■「老化」とは「エピゲノムの劣化」である

話を老化へと戻しましょう。では老化とは何なのでしょうか。

 

シンクレア博士によると、老化とは「エピゲノムの持つ情報の消失」であると定義しています。先に述べた、遺伝子読み取りのタイミングといった「タイムスケジュール」の情報が消失するということです。

 

これだけでは話が抽象的すぎるので、より具体的に理解したい方のために少し詳しく説明しましょう。

 

遺伝子は二本鎖DNAからできています(図表1)。このDNAはヒストンタンパク質という丸い球形のタンパク質の周りにぐるぐると巻き付いて束ねられています。ちょうど毛糸を心棒に巻き付けて、絡まないようにしている感じです。このDNAの情報が読み取られるときには、ヒストンタンパク質に巻き付けられているDNAが弛む必要があります。ヒストンタンパク質にDNAが巻き付いて一塊になっている状態をヌクレオソームと言います。

 

PIXTAより作成
[図表1]遺伝子 PIXTAより作成

 

そして、DNAが巻き付いているヒストンタンパク質が、メチレーション化やアセチル化されることで、遺伝子が読み取られるか否かが変わってきます。

 

つまり、ヒストンタンパク質へのDNAの巻き付けを緩めたり締め付けたりすることによって、メチル基やアセチル基と遺伝子との結合しやすさを変え、遺伝子の読み取りが調節されるのです。

 

これ以上の説明はかなり難しくなるので、専門書に譲るとして、要するにメチレーション化やアセチル化とは、遺伝子が読み取られるタイミングを調節している科学的修飾だと理解していただくといいと思います。

 

遺伝子は私たちの身体の働きをすべて決定している「設計図」で、変えることはできないデジタル情報ですが、ヒストンタンパク質へのDNAの巻き付き具合というのは、調節が可能なアナログ情報だということができます。

 

アナログ情報ということは、環境の変化に対応して自由に調節することができるということを意味します。しかし、一方ではデジタル情報よりも不安定で、環境の影響を受けて劣化しやすいということでもあります。

 

このアナログ情報が劣化し、遺伝子の読み取りのタイミングが正常に機能しなくなることで、私たちの身体に微妙な「不具合」が溜まり始めます。この不具合の蓄積が老化の原因だということです。

 

DVDやCDなどのデジタル情報は劣化しませんが、ビデオテープなどのアナログ情報はダビングするほど画像が劣化するのと似ています。

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    医療法人全人会 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医
    医学博士

    京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院・京都大学消化器内科などで内科全般を研修し、消化器内科を専門とする。内科医として約20年病院勤務。現在は、小西統合医療内科院長として、機能性医学を柱とした統合医療の立場から診療に携わっている。

    【小西統合医療内科HP:https://www.konishi-clinic.com/

    機能性医学に関する情報をFBなどで発信しています。
    下のリンク集をご参照ください。
    https://lit.link/doctorKonishi

    著者紹介

    株式会社イームス 代表取締役社長
    メタジェニックス株式会社 取締役
    株式会社MSS 製品開発最高責任者 

    欧米で生化学と栄養学を学び、製品の研究開発並びに医療コンサルティング会社を立ち上げる。

    2009年に機能性医学をいち早く日本に紹介し、現在は日本の医療従事者へのソリューション提供や講演活動に従事している。

    著者紹介

    連載自己治癒力を高めるための機能性医学

    自己治癒力を高める医療 実践編

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