(※写真はイメージです/PIXTA)

事業承継の一つの方法として「従業員承継」があります。社内の役員や従業員に会社を引き継ぐもので、親族承継とともに、よく実施される手法です。従業員承継にはさまざまなメリットがある一方、デメリットも存在します。株式会社M&Aナビ社長の瀧田雄介氏が著書『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)で解説します。

社内承継での資金調達への対応

相続や贈与により自社株式・事業用資産を取得する親族内承継と異なり、社内承継ではこれらを経営者から有償で譲渡されるケースが多いというのが実情です。

 

実務的には、「MBO(役員による株式取得:ManagementBuy-Out)」「EBO(従業員による株式取得:Employee Buy-Out)」を実施しますが、その際の取得資金の確保は大きな課題となっています。

 

資金調達の手法としては、「金融機関からの借入」「後継者交付の役員報酬の引き上げ」などが一般的ですが、規模の大きい中小企業の事業承継では、後継者の能力や事業の将来性を期待するファンドやベンチャーキャピタルなどからの投資により、次のような流れでMBO・EBOを実施する事例も増えています。

 

ステップ① :後継者が自己資金や金融機関からの借入で対象会社の株式を取得するSPC(特定目的会社)を設立。ファンドやベンチャーキャピタルが出資する。
ステップ② :SPCが自己資金の不足分を金融機関から借り入れる。
ステップ③ :SPCが現経営者から対象会社の株式を買い取り子会社化(SPCが対象会社を吸収合併するケースもあり)。
ステップ④:対象会社からSPCへの配当などを原資に、金融機関からの借入を返済する。

 

これは、後継者による持株会社の設立スキームの応用編とも言える手法です。現経営者や金融機関、ファンド、ベンチャーキャピタルといった関係者と相談・調整しながら進めます。

 

■経営承継円滑化法の民法特例は社内承継でも活用できる

 

経営承継円滑化法の民法特例は、2016年4月から親族内承継だけではなく、社内承継を含む親族外承継者が贈与を受けた株式などについても遺留分減殺請求の対象から除外できるようになりました。

 

これにより、資金調達が難しいなどの理由で後継者に株式の贈与を選んだ場合でも、遺留分の特例が適用されます。株式の分散を防止することができ、承継後の安定経営に寄与します。同法に基づく金融支援も社内承継で利用できるので、活用を検討したいところです。

 

瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。
瀧田雄介著『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より。

 

瀧田雄介
株式会社M&Aナビ 代表取締役社長

 

 

※本連載は、瀧田雄介氏の著書『中小企業向け 会社を守る事業承継』(アルク)より一部を抜粋・再編集したものです。

中小企業向け 会社を守る事業承継

中小企業向け 会社を守る事業承継

瀧田 雄介

アルク

後継者がいなくても大丈夫!大事に育ててきた会社を100年先へつなぐ、これからの時代の「事業承継」を明らかにします。 日本経済を支える全国の中小企業は約419万社。そして今、その経営者の高齢化が心配されています。2025年…

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