高齢者は若年層に比較して資産を多く保有している傾向がありますが、当然個人差もあります。富める人はますます富み、資産の少ない人はなかなかその状況から脱することができないといった厳しい状況に至ってしまうのは、どんな原因があるのでしょうか。

格差はすでに「中年期」から拡大している

先述の格差の要因からわかるように、格差は中年期からすでに拡大しています。中年層における顕著な格差拡大は明らかであり、格差拡大の背景には低資産の世帯の割合が増えて高資産の世帯の割合が減る「低資産化」と言うべき実態があるのです。

 

こうした中年層を中心とした資産格差の拡大は、所得格差の場合のように人口高齢化などによる「見せかけ」のものではなく、同一年齢層内での格差の拡大という「実質的な」格差拡大です。今後は、中年期に少額の資産しか形成できなかった高齢者の増加の問題が考えられるでしょう※5

 

※5 三田清人「我が国における資産格差とその拡大要因」『京都産業大学経済学レビュー』No.8、2021年、34-74頁。

男性現役世代と女性の若年層で「格差拡大」の可能性

さらに、こうした格差の問題は若年期にも要因があります。男性の現役世代と女性の若年層で格差が拡大している可能性があり、日本の経済的格差の拡大は、教育や学歴、情報等の様々な領域へ波及し、社会的格差という数値では表しにくい質的格差の拡大、固定化につながることが懸念されています。とくに若年層において経済的・社会的格差が拡大すると、世代内、世代間へ継承され、重大な問題に発展する可能性が高まります※6

 

※6 菅原佑香・内野逸勢「所得格差の拡大は高齢化が原因か~若年層における格差拡大・固定化が本質的な課題~」『大和総研調査季報2017年春季号』Vol.2、2017年、38-51頁。

 

また、世代間の格差について、世代間会計によって世代ごとの生涯純受益(=生涯受益−生涯負担)などを定量的に推計した結果、60歳以上の世代は生涯で3390万円の受益超過、50歳代の世代は971万円の受益超過である一方、40歳代以下のすべての世代は生涯で負担超過となっています。とくに60歳以上の世代と将来世代を比較すると、生涯純受益の格差は1億円以上※7。こうした世代間の不公平是正の観点から、勤労所得の少ない高齢者にも税負担を求めようということで消費税の導入が行われたという背景があります。

 

※7 小黒一正「コロナ危機と財政をめぐる課題」『証券アナリストジャーナル』第59巻第8号、2021年、6-19頁。

 

しかし、資産格差、所得格差が著しいこの世代に「一律に負担を課する消費税が本当に適切なのかは疑問が残る」※8と考えられています。

 

※8 三木義一『日本の税金』岩波書店、2012年。129頁。

 

 

藤波 大三郎
中央大学商学部 兼任講師

 

 

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