「京ことばには、耳に流れてくる優雅さには似合わない〈毒舌針〉が仕込まれている――」京都在住60年、巧妙かつ恐ろしい言語戦略と、はんなり優雅な物腰が同居する「京都ジン」を見聞きし、体験してきた文筆家の大淵幸治氏が、本格的「京ことば」について解説します。本記事は「ええ加減にしときよし」「あんた、大概え」の意味を探ります。

【あんた、大概え】

表題は、京のおんな言葉で発される禁止もしくは制止表現だ。

 

京のおんな言葉は、この「~え」と「~しよし」に尽きる。

 

したがって、これ以外の言葉はすべて男女共通だ。「おしやす」は男でも使う。表題は、例えば悪戯をし続ける幼児にそれ以上の行動をやめさせるために吐かれる。

 

先んじていえば、機先を制することになるので、大事に至らぬうちに「相当好き放題やっているけど、ほどほどのところでストップしなさいよ」といっているのだ。

 

その意味では、先述の「ええ加減にしときよし」に、ほぼ同意だ。

 

だが、コノテーション(内包)的に「中止」の意味もあるかもしれないが、表面的に見れば、そこには「相当やね」もしくは「あらあら」といった感嘆の表明がなされているに過ぎない。いわれた幼児にしてみれば、「禁止」の意味が含まれているとは思わない。

 

そこで、話者はボディランゲージとしてのポスチャー(姿勢)を使って、諭すようにいうことになる。そうして初めて幼児は、相手が自分の行為を中止せよ――といっているのだなと了解する。母のしかめっ面や怒気に満ちた表情といった言外の様子がなければ、その子は言葉の意味が理解できないのである。

 

こうした言葉プラス言外の様子が、真のコミュニケーションを成立させ、ノンバーバルストラテジー(非言語伝達戦略)としての機能を発揮する。

 

そのためには、いまのような経験の積み重ねと、ポスチャーを伴った言語学習が必須課題となる。身内のフリ見て、わがフリを直すのである。

 

…いちびりすぎえ

 

子どもというのは、煽てたり褒めたりすると、その行為をいつまでも続けるものだが、それの度が過ぎるのを京都弁では「いちびる」という。

 

だから、表題を「調子こくな」と訳してもいいのだが一応、内心語の訳としては標記のものを掲げておく。

 

一般にいちびりという語が対象にしているのは幼児であり、大人を指すことはあまりない。だが、大人に対してこれが使われる場合、相手を小バカにしている表現といっていい。つまり、話者は相手を子ども扱いしているということである。

 

その昔、「喜ばれることに喜びを」というのをモットーにしている奥さんがいた。

 

この奥さん、その言葉とは裏腹に、結果的に見れば「嫌がられること」を目標にしているふうがあって、多少でも面識のあるひとには、要らんことイーの自慢シーとして、つとに知られている存在だったのである。

 

なぜなら、彼女には相手が望みもしない物品や手作りの物を持って行くのはいいが、そのことを自慢げに吹聴するヘキがあったからである。しかもそれが素敵なものならいざ知らず、概して褒められた代物でないときていた。

 

本人は喜ばれていると能天気に信じているが、もらうほうはウンザリ。

 

それで絞り出した断わり文句が「〇〇さん、もう大概やし。こんなことは今回で勘弁したって――」だったのである。

 

大人のイチビリも、やはり「嫌われの素」になるのである。

 

 

大淵 幸治

 

 

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※本記事は、大淵幸治氏の著書『本当は怖い 京ことば』(リベラル社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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