(画像はイメージです/PIXTA)

高齢の父を心配し、自分の家族と一緒に同居して面倒を見ていた娘。しかし、父のお金を管理するほか、自分たちの生活資金のすべても父の財布から出しています。父が亡くなると、別居していた息子は、それを「特別受益」だと主張しますが…。高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

食費・水道光熱費などの生活費は「特別受益」なのか?

相続でよく問題となることの1つに「特別受益」というものがあります。

 

特別受益というのは、相続人の1人に、生前贈与など特別な利益を得ていた場合には、これを相続分の前渡しとして、遺産に加算して各相続人の相続分を計算して、特別受益を得ていた相続人の相続分から特別受益分を差し引くこととする制度です。

 

例えば、遺産が3000万円で、相続人がAとBの2人のとき、Aが父親から1000万円の生前贈与を受けていたケースでは、1000万円の生前贈与を特別受益として持ち戻して、遺産は4000万円となります。

 

相続人が2人の法定相続分は2分の1ずつですから、ABの相続分は2000万円ずつとなります。

 

Aはすでに1000万円を生前贈与として受領していることから、遺産から1000万円を受け取ることとなり、Bは2000万円を受け取ることとなります。

 

本件では、親の面倒を見るために、親の家に無償で住んでいたことと、親と一緒に住んでいるときに出してもらっていた食費や水道光熱費などの生活費が特別受益となるかということが問題となっています。

 

花子さんは、ただで住んだり、ただで生活したりしているのですから、利益を得ており、特別受益があるようにみえます。

 

しかし、民法上の特別受益は「遺贈」「婚姻又は養子縁組のための贈与」「生計の資本としての贈与」と規定しています。

 

したがって、遺産の前渡しあるいは生計の基礎として役立つような財産の給付と考えられています。

 

そして、同居しているようなケース、同居して食費や水道光熱費など一緒に生活するための生活費を出しているようなケースは、生計の資本の贈与には当たらない、即ち、特別受益には当たらないとされています。

 

仮に、これらが特別受益に該当するとしても、本件では、花子さんが同居をして面倒を見る代わりに、太一さんが、自宅に花子さん家族を無償で住まわせ、母子さん家族の生活費を負担していたと考えるのが普通です。

 

したがって、そのような場合に持ち戻しをして相続で花子さんの相続分を減らす考えは太一さんになかったと思われ、「持ち戻しの免除」があったと考えられます。

 

いずれにせよ、本件では、花子さんが太一さんの家に無償で住んでいたことは特別受益とならなりませんし、花子さんが太一さんから一緒に生活するために食費や水道光熱費を出してもらったことも特別受益となりません。

 

したがって、正解は選択肢③と④で、太一さんの家に無償で住んでいたのだから、賃料相当額が特別受益となるという選択肢①と、太一さんに生活費を出してもらっていたことは特別受益になるとする選択肢②は誤りとなります。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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