個人にも、不動産業者にも不都合な土地
例えば、相続人が300平方メートルの土地を売ろうとする場合、分割して売りに出し、各々にしっかり買い手を見つけることは非常に困難です。
なぜなら、最低165平方メートル以上の面積がなければ住宅を建てることができず、この面積を確保するとなると、残りは住宅を建てられる基準には広さが到底及ばず、適切な使途が見当たらないからです。
土地を分割せずに売るとしても、土地代があまりに高額すぎるため、購入できる層の母数がぐっと減ってしまい、こちらも買い手を見つけるのが非常に困難です。「田園調布」の300平方メートルの土地の相場は1億数千万円にも及ぶと言われています。
では、個人の住宅用ではなく、資金の準備がある不動産業者は買い手になるでしょうか。この場合も“建築協定”の「田園調布憲章」がネックとなります。
「建物の高さは9メートル、地上2階建てまで」とされているため、継続的な利益が見込める、高層マンションや商業ビルなどを建てることはできません。さらに、「ワンルームタイプの集合住宅は不可」とされているため、単身者向け住宅も建てられません。
このように、「田園調布」の土地は個人にとっても、不動産業者にとっても、手が出しづらい状況にあります。
高額な相続税も、相続人のネックに
土地の価値が高いということは、それだけ相続税も高騰します。支払う余力がない場合には、相続した土地を担保に融資を受け、別の土地で不動産経営をするなど、工夫が必要です。また、リフォームをしてファミリー向け賃貸物件として経営するという選択肢もあります。
さらに、空き家が増え新しい住民が入らなくなると懸念されるのは、住民の高齢化です。「田園調布」は坂も多く、スーパーなどの商業施設は駅周辺にしかないことを考えると、高齢者にとって住みやすいとは決して言えない街でもあります。ですが、住民にとっては、このうえなく親しみのある街なのです。
戦前に誕生し、高度経済成長期の日本とともに成長し、様変わりしてきた「田園調布」。さらなる時代の変化とともに、新たな息吹が吹き込まれることを期待せずにはいられません。