(※写真はイメージです/PIXTA)

香川県中小企業家同友会が、全国の同友会会員から格別に注目されています。それの理由はひとえに、県内の全企業数に対する会員数の比率(対企業組織率)の高さにあります。香川同友会がなぜ会員増強にこだわるのでしょうか。ジャーナリストの清丸惠三郎氏がレポートします。

「数は信用」であり「数は力」である

■愛知の常識は全国の“異”常識

 

組織率で注目されているのが香川だとすると、絶対人数で全国的に注目されているのが愛知同友会である。もっとも現在、最大の会員数を誇るのは北海道で5765人、愛知は4270人で第2位である。それでもより愛知が注目されるのは、21世紀に入って17年間一度も対前年比でマイナスがないという点だ。リーマンショック時でさえも、わずか4人とはいえ前年比プラスで乗り切っている。他の同友会はただただ脱帽するしかない強固な組織だと言っていい。

 

愛知の増員面での強さの要因は何か。東海地方の有力合板販売会社、宇佐見合板社長で愛知同友会副代表理事を務める宇佐見孝氏は、インフラ整備と組織づくりの面から、説明を始めた。

 

「90年代の中ごろからですが、会員の自主性と主体的力量を高め、事務局業務を高度化し、会員数2000人から3000人にするにはどうすべきかを論議し始めた。そこで出てきたのが会内グループウエアの開発です。当時、対外的には『Ainet(アイネット)』と呼ぶホームページがあり、これに支部や各地区会の動きも掲載していたのだが、バランスよく掲載するわけにはいかなかった。

 

そこで会内に向けては『あいどる』(Aichi Douyukai Onlineの略)というグループウエアを設けることにした。これにより組織内の行事予定の告知や出欠など情報処理が効率的かつスピーディーに行われるようになったのです」

 

愛知同友会はこのように対外的に同友会活動をPRする担当部署として「報道部」を設置、また「あいどる」を用いて会内に同友会理念や方針を伝える「広報部」を設け、さらには組織活動の支援システムづくりを担う「情報部」を、そして情報取集や分析、予測を行う「景況調査委員会」をつくり、この4つの組織が情報連絡協議会を結成している。

 

これによって愛知同友会の活動内容、会員企業の活動、さらには中小企業の現況と問題意識が組織の内外に発信されていくのである。ちなみに最後の情報連絡協議会を除くと、他の3つの部はすべて会員の手で運営されている。事務局はほとんどタッチしない。なんでも事務局任せという同友会も少なくないようだが、そこも愛知同友会の独特なところである。

 

話を情報ネットに戻す。情報ネットは、従来のFAXを用いていた連絡網では効率が悪く、地区役員に負担がかかっていたが、「あいどる」の導入で彼らの負担が減るとともに、地区内の小グループ活動の活発化が可能になった。つまり地区例会に加え、さらに下部のグループ会を毎月開くことが可能になったのだという。このあたりも愛知独特だ。

 

グループ、支部とお互い切磋琢磨する機会が月2回に増えるとともに、15~20人前後で構成されるグループ会は会員の会社で開くことを原則にしていたので、現場を見ての親身のアドバイスが(時にはおせっかいなほどだそうだが)行われて、単刀直入で意味ある経営論が戦わされただけでなく、密度の濃い人間関係が構築されていくのだ。とすれば当然、退会する人は減るし、学び甲斐があるので、新規入会希望者も増えていくという好循環になるわけである。

 

また入会者が増えると、必然的に小グループの数も増え、組織としての活動もさらに活発化することになる。地区例会の内容は「あいどる」で全会員に公開され、これはと思われるものは広報部の編集メンバーの手で「アイネット」や広報誌「同友Aichi」に転載される。これにより当該地区メンバーの意欲はさらに増すことになるのだ。

 

さらに、宇佐見氏が会勢増強のポイントとして挙げるのが、愛知独特の「青年同友会」という組織の存在だ。青年同友会は連絡・調整のために青年同友会連絡協議会を組織しているが、一方で各支部にある青年同友会は地区同友会と並列に置かれている。「青年同友会のメンバーは経営トップの予備軍で、41歳まではここに属し、卒業後、地元の地区同友会に移る。つまり人間関係をさらに広げられて、2度勉強会を楽しむことができるのです」と宇佐見氏。

 

青年同友会の組織としての強さ、魅力は次の数字でもわかる。愛知同友会の会員のうち、20~30代が全体の25%の1100人余。40代の40%に次ぐ、50代は20%、60代以上は10%ほどにすぎない。「愛知同友会は非常に若い会。それというのも青年同友会の組織がしっかりしていて、卒業後もしっかり活動を続けていく方が多いからです」と宇佐見氏。

 

また創設時の遠山昌夫氏(初代代表理事)に始まり、鋤柄修氏(現・中同協相談役)や加藤明彦氏(前・代表理事、エイベックス会長)に至る、優れたリーダーを次々と輩出してきたことも大きい。加えて愛知同友会の増勢を可能にしている点を探せば、自動車産業を中心に製造業に強固な基盤を有し、堅実志向の強い経営者が多い愛知という土地柄に即した、実質性に富む独特の体質を育んできた点であろう。

 

内輪博之専務理事が過日、熊本同友会における研修会で述べた、「最近の愛知同友会の流行語」にもそれを窺うことができる。アイテムだけを拾ってみよう。

 

「数は信用」「『同友会らしい』黒字企業」、それに「愛知の常識は全国の『〝異”常識』、全国の常識は愛知の『〝非”常識』」などなど。理念以上に「黒字」という経営実態を大事にすべき、という堅実な愛知県人らしさが明確に表れているし、数が信用のベースだという考えもいかにも実質的な愛知県人らしい。

 

常識的なレベルで、なあなあで論議を終えてしまうようなことも時間の無駄と考える人たちだから、論議は徹底したものになり「愛知の常識は全国の『〝異”常識』、全国の常識は愛知の『〝非”常識』」などということにもなるのだろう。

 

ただ、そうした堅実さが半面での保守性につながっており、男女ともに「女性は家庭に入るべきだ」という考えがいまだに根強く、女性会員の比率が全国的に見て極めて低い。逆に言えば、増勢の余地がまだまだあるということでもあるのだが。ちなみに沖縄同友会を長年けん引し、中同協の女性部代表も務めた糸数久美子氏は実は愛知出身である。

 

いずれにしろ、ここ愛知同友会でも会員数へのこだわりは強い。「数は信用」であり「数は力」であり、それはすなわち同友会の意見を国や自治体の政策に反映させるためであることは言うまでもない。
 

 

清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

 

 

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※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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