(※写真はイメージです/PIXTA)

香川県中小企業家同友会が、全国の同友会会員から格別に注目されています。それの理由はひとえに、県内の全企業数に対する会員数の比率(対企業組織率)の高さにあります。香川同友会がなぜ会員増強にこだわるのでしょうか。ジャーナリストの清丸惠三郎氏がレポートします。

香川県同友会が会員増強にこだわる理由

■組織率トップ!3つの秘密

 

この十河氏らが加入している香川県中小企業家同友会が、全国の同友会から格別に注目されている。それの理由はひとえに、県内の全企業数に対する会員数の比率(対企業組織率)の高さにある。香川同友会は会員の絶対数こそ1586人と全国で10位、中の上クラスにとどまるが、組織率を見ると2019年2月時点で10.13と47同友会のうちでトップである。2位は沖縄で9.43、3位が北海道で7.45、以下福島、広島、京都と続く。全国平均は2.67にとどまる。注目をあびる理由もわかろうというものである。

 

2003年から香川同友会代表理事を務める川北哲氏は、その理由を次のように分析する。ちなみに川北氏は高校卒業後農協に勤め、退職後、姉夫婦の電気設備会社を専務として手伝ったのち独立。現在、四国はもちろん、関西、九州など西日本に20カ所の温浴施設を展開、ほかにもホテルや飲食店を運営するレジャー関係企業、創裕の創業者だ。いかにもやり手経営者らしく、論旨は明快である。

 

「香川同友会がなぜ会員増強にこだわるかと言えば、組織が大きいほど地域づくりに与える影響力が大きくなるからです。私たちは中小企業振興基本条例づくりに力を入れてきたが、ほかの同友会や自治体といささか異なるのは、制定しただけで止まってしまっている多くの同友会、自治体が多いなかで、さらに一歩進めて、地域経済活性化に役立つものにしていこうとしていることです。

 

そのためには、会員を増やして行政を動かすだけのパワーを持つ必要がある。パワーはやはり数であり、組織率。首長も、行政も、そして政治家も数字を見ますから。香川同友会の組織率は一時期15%近いこともありましたが、現在は10%強。そういうことで、私としては20%までもっていけないかなと考えています」

 

川北氏や十河氏の話を総合すると、香川同友会が一時の低迷期を除いて高い組織率を維持してきた理由として、会員ががむしゃらに新人会員を勧誘したうえで、稠密に支部を設立、その支部ごとに熱心に勉強会などを行い、会員が相互に切磋琢磨してきたこと。その中から優れたリーダーが次々生まれてきたこと。加えて香川県の面積が狭いことから、会員相互のコミュニケーションがとりやすく、様々な面での情報の共有がうまくできたことなどを挙げる。

 

優れたリーダーという点では、先ごろ亡くなった三宅昭二氏は1982年から24年間にわたり代表理事を務めた(中同協副会長も歴任)が、いつもカバンに入会案内を数通入れておき、出張の行き帰りの飛行機で隣り合わせた人が経営者で、自分の眼鏡にかなった人だったりすると必ず入会を誘ったものだという。

 

三宅氏は県西観音寺市に本社を置く三宅産業の経営者で、同社を売上高50億円余りの県内有数の住宅設備・リフォーム企業に育て上げたことでも知られている。香川同友会にはこの三宅氏に誘われて入会した人が多く、この話は香川にとどまらず。四国四県ではある種伝説と化している。

 

しかし現状は、会員数が2003人を記録した、三宅代表理事時代の1991年ピーク時にははるかに及ばないし、ここ数年は1600人台で会勢は伸び悩んでいる。このため2018年、代表理事の一人明石光喜・明石建設社長が本部長になり、「仲間づくり推進本部」を新設した。

 

ただ従来の組織委員会と役割分担が不明瞭との指摘もあり、19年から仲間づくり推進本部が会員増強部分を、組織委員会が会員の減らない組織づくりの役割を担うことになった。「とにかく香川同友会はわっと増やすことは得意だが、入会した会員をしっかりつなぎとめる点がやや弱い。ここを改める必要があります」と川北氏は率直に弱点を指摘する。

 

もう一つ川北氏が挙げた課題は「今は二代目経営者の時代に入っている。その人たちを入会させるためにどういった魅力を発信するかですね」という点。現在は情報化時代、様々な情報が飛び交い、学びの場もたくさんある。

 

これに対して、同友会がどういう魅力を発信できるのかということだ。十河氏はこう述べる。

 

「同友会には様々な経験、ノウハウ、そして識見を持った方々がおられる。経営だけでなくいろんな点で悩んでいる若い会員は、そうした先輩を訪ねて教えを請えばいい。門戸はいつも開かれています。そこが同友会に入る大きなメリットです」

 

同友会は人間力で勝負すればいいということだろう。

 

実は、これは十河氏の体験からきている発言である。先に徳武産業の経営指針書のことを記したが、十河氏がお手本にしたのは同友会の先達で、通信販売大手やずや創業者、矢頭宣男氏であった。矢頭氏のことは詳細は省くが、十河氏は「経営のいろはを教えていただいた」と語る。

 

自分にとっての矢頭氏のようになりうる存在が、今の同友会にもたくさんいるはず。入会してその人たちから学びなさいというのだ。十河氏自身もまた、現代の同友会における、そうした先達たりうる一人であることは言うまでもない。

 

冒頭の駐車の件も、矢頭氏から学んだことだという。「田んぼの真ん中に会社がある。後ろ向きに駐車させれば、イネに排気ガスがかかる。丹精こめて稲作をしている農家の方に迷惑がかかるじゃないですか」と忠告されたのだ。

 

以来、十河氏は地域に迷惑をかけない、環境に配慮することなどをも常に心掛けるようにしている。会社の敷地内には社員が昼休み時にくつろげるように公園が整備されており、近郊の丘陵地には私費を投じてつくった森林公園があり、近隣住民に広く公開されている。

 

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    ※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

    小さな会社の「最強経営」

    小さな会社の「最強経営」

    清丸 惠三郎

    プレジデント社

    4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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