
日本にはこれまで、「嫁」という立場にある女性は家事全般を引き受けるのはもちろん、夫の両親の介護までやるのが当然という価値観がありました。近年では民法が改正され、相続人でなくても介護等に努めてきた親族には、その寄与に応じた「特別寄与料」の支払いが認められるようになりましたが、課題もあります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。
【関連記事】「お姉ちゃん、介護をありがとう。全財産は、跡継ぎの弟君へ」相続の現場で放たれた、強烈な一言
未だ根強く残る「介護は嫁の仕事」という考え方
人生100年時代といわれて久しい日本。長生きは大変すばらしいことですが、延びているのは健康寿命ばかりではなく、「要介護状態」となってから長い時間を過ごす方も少なくありません。
日本は介護保険制度も整備されているほか、近年では高齢者施設が増え、きめ細かいケアが可能となっています。とはいえ、すべてを社会システムにゆだねられるわけではなく、少なからぬ「家族の負担」があるのです。
夫婦共働きのスタイルが一般的になって来たものの、家族のケアの多くは女性に偏りがちです。「介護は実子」といわれているものの、実際には、夫に代わって妻が「夫の親」を介護していることも多いのです。
考えさせられる例をご紹介したいと思います。
結婚直後に義親が倒れ、介護を余儀なくされた女性
優子さんは憧れていた仕事に就き、将来のキャリアプランも思い描いていましたが、結婚後すぐ、夫の親が倒れたことから、人生設計の大幅な変更を余儀なくされました。
結婚当初、夫とは20代の間は共働きで貯金を増やし、30代になったら子どもを…と話し合っていたのですが、30歳を目前に夫の母親が脳梗塞で倒れ、半身不随になってしまったのです。
夫の実家はそれなりに資産があり、姑をケアの行き届いた施設に入所させることは可能でした。しかし、問題は舅でした。「家族の世話を他人にやらせるなど恥だ」といって聞く耳を持たず、施設への入所を断固拒否。しかも舅は、家事はおろか、自分の身の回りのことも一切できません。簡単な食事の準備や掃除すらできず、すぐに日常生活が立ち行かなくなってしまいました。
夫は優子さんに頭を下げ、両親の介護と家事を懇願。夫自身も母親に寂しい思いをさせたくないと泣きつきました。優子さんは家族から押し切られる形で退職し、介護中心の生活に突入しました。
夫は仕事が多忙で帰宅が遅く、休日も不在がちで、優子さんはずっと孤軍奮闘。10年後に姑が亡くなり、姑の介護中にも舅が要介護状態に。舅が亡くなったのは、姑が亡くなってから5年後でした。優子さんの介護生活は15年に及びました。
「毎日やることがいっぱいで、あっという間に時間が過ぎてしまいました。その間、私の両親も亡くなりましたが、お見舞いに行く暇もほとんどなくて…」
実は夫には、嫁いだ妹がひとりいます。姑が倒れた当初は、子育てが忙しいといって介護には一切参加しませんでした。しかし、それから数年後、妹は子どもを連れて離婚。今度は自分の生活が大変という理由で、やはり介護のサポートはありませんでした。