(※画像はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2022/4/14号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

6. 特定投資家私募制度の整備と特定投資家に対する店頭有価証券の投資勧誘規制の緩和

有価証券届出書の提出等の公衆縦覧の開示を行うことなく株式発行による資金調達を行う方法として、特定投資家私募の制度が設けられています(金商法2条3項2号ロ)。もっとも、いわゆるプロ向け市場を除き、非上場株式等に係る特定証券情報が整備されておらず特定投資家私募が利用できない状況にありました。また、金融商品取引業者等による店頭有価証券の投資勧誘が日証協の自主規制規則により、原則として禁止されており、証券会社は、非上場株式等について特定投資家私募の取扱いを行うことができず、既存株主による売付けに係る勧誘を行うことができる場面も限定的でした。

 

このような状況の下、上記1の提言を踏まえて、日証協はパブリックコメントの手続を経て2022年4月1日に店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘等に関する規則(以下「新規則」)の制定及び諸規則の改正を行い※9、特定投資家私募制度の整備や特定投資家に対する店頭有価証券の投資勧誘規制の緩和が行われています。

 

※9 https://www.jsda.or.jp/about/public/kekka/files/20220401_sankou_hijojo.pdf

 

新規則による新たな制度の下では、日証協が内部管理体制等が整備されていることを確認した協会員を取扱協会員として指定し(新規則13条2項)、取扱協会員は新規則に従った店頭有価証券等の投資勧誘(プライマリー・セカンダリーの双方)を行うことができることになります。そして、取扱協会員が店頭有価証券等の特定投資家に対する投資勧誘を行う際には、店頭有価証券等の特性・リスクの内容を把握し、投資勧誘を行うことの適否・対象顧客の範囲について検証をしなければならず、この検証に際しては、有価証券の区分に応じた審査を行わなければならないものとされています(新規則3条)。

 

また、投資勧誘・取引の方法(新規則第4章)、内部管理体制(新規則第5章)等の投資勧誘に関するルールも整備されています。加えて、店頭有価証券等に係る特定証券情報・発行者情報の提供又は公表の方法、様式等についても新規則に定められており(新規則6条・7条)、特定投資家私募における情報開示制度が整備されています。

 

前述のとおり、日証協の会員である証券会社は原則として店頭有価証券の投資勧誘を行うことが禁止されていますが、株主コミュニティや株式投資型クラウドファンディングの場合等と並んで、新規則による場合も店頭有価証券の投資勧誘が認められることとされています(店頭有価証券に関する規則3条)。あわせて、株主コミュニティへの参加に関する勧誘をできる者に特定投資家を追加することとされており(株主コミュニティに関する規則9条2項6号)※10、株主コミュニティを利用した特定投資家との取引が行いやすくされています。

 

※10 証券会社は、株主コミュニティの参加者以外の者に対して株主コミュニティ銘柄の投資勧誘を行うことが認められておらず、かつ、当該株主コミュニティ銘柄の既存株主等の一定の要件を満たす者を相手方とする場合を除き、株主コミュニティへの参加に関する勧誘を行ってはならないとされています(株主コミュニティに関する規則16条、9条2項)。

 

 

以上の特定投資家投資勧誘規則及び各規則の改正の施行日は2022年7月1日とされています。

7. 市場制度WGでの更なる検討-PTS業務の対象範囲-

現行の金商法では、私設取引システム運営業務(PTS業務)として非上場の特定投資家向け有価証券を取り扱うことが禁止されており(金商法2条8項10号、金商法施行令1条の9の3)、証券会社等がPTS業務の認可を受けて非上場株式等を取り扱おうとしても、特定投資家向け有価証券を対象とすることはできないことになっています。このような状況を踏まえ、市場制度WGでは、特定投資家向け有価証券をPTS業務の対象とすることの当否について検討が行われており※11、今後の制度改正の動向次第では、特定投資家私募により発行された非上場株式についてPTSの利用によりセカンダリー取引が行いやすくなることも期待されます。

 

※11 市場制度WGでは、投資家が株主コミュニティ制度を利用して非上場株式の取引を行う場面等において、証券会社がオンライン上で電子的に取引のマッチングを行おうとする場合に、一定の範囲で電子的に有価証券取引のマッチングを行うことがPTS業務に該当しないようにすること(あるいは、PTS業務に該当しないことを明確にすること)等の検討も行われています。

 

 

有吉 尚哉
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

 

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有吉尚哉

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