
配偶者の死後、婚外子の存在が発覚するケースは少なくありません。近年では婚外子も嫡出子と同等の相続権が認められているため、遺産分割のプランを変更する必要が生じることもありますが、なにより面識のない相手と遺産分割協議のテーブルに着くなど、想像以上の大きなストレスがかかってしまいます。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が実例を交えて解説します。
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派遣先のエリート社員と結婚、タワマンを購入
相続は、人生のなかで頻繁に起こることではありません。また多くの場合、「身近な方の死」というショックな出来事とセットとなるため、当事者となった方々は、しばしば心の平静を失ってしまいます。
ただでさえそのような状況に置かれているのに、相続手続きをすすめるなか、追い打ちをかけるような事実が判明することがあります。遺言書の中身や財産構成はもちろんですが、ときに想定外の相続人の出現に驚愕することがあります。
30代の専業主婦、綾子さんの身に起こったケースです。
綾子さんは大学卒業後、新卒で入社した会社が合わず退職。その後はずっと派遣社員としてあちこちで働いていましたが、数年前、派遣先の大手外資系金融会社で夫となる健人さんと出会い、結婚しました。
健人さんは有名大学卒業で頭脳明晰、優しくユーモアもあり、若手社員の中心的人物で、上層部からの信頼も厚く、将来を嘱望されていました。社内外でも健人さんに好意を持っていた女性は少なくなく、綾子さんは大変な妬みを買ったといいます。
綾子さんは、派遣先の女性従業員との関係が悪化し、精神的ストレスを受けて勤務が難しくなったことから、健人さんに「落ち着くまで専業主婦となってはどうか」と提案を受け、従いました。
健人さんと綾子さんは、結婚を機に都内のタワーマンションの一室を購入しました。健人さんは結婚後も変わることなく優しく、綾子さんはとても幸せな日々を過ごしていたといいます。
生活が落ち着いたら仕事に復帰するつもりだった綾子さんですが、親しい友人や親族が次々と出産するのを目の当たりにし、次第に焦りの気持ちが出てきました。健人さんに気持ちを打ち明けると、健人さんも考えに同意してくれたので、仕事への復帰より、まずは子どもを授かるよう、人生プランを変更したのです。
夫の帰宅を待つ幸せな生活に訪れた「まさかの事態」
綾子さんと健人さんに第一子となる太一ちゃんが生まれたのは、それから3年後でした。
健人さんは順調に出世して仕事も多忙になっていくなか、綾子さんも慣れない子育てに奮闘していました。健人さんも非常に太一ちゃんをかわいがり、どんなに遅く帰宅しても、必ず寝顔を見ていたそうです。
しかし、健人さんの仕事はますます忙しくなっていきました。
「パパ、早く帰ってくるといいねー」
綾子さんが太一ちゃんを寝かしつけていると、綾子さんのスマホに知らない番号の着信がありました。
「もしもし?」
「健人さんの奥さんですか?」
「はい、そうですが…」
電話の声は緊張でこわばっていました。
「私、健人さんの部下の佐藤と申します。健人さんが出先で事故に遭いまして…」
綾子さんは太一ちゃんを抱えタクシーに飛び乗り、健人さんの部下から聞いた病院に駆けつけました。
交通事故に遭った健人さんの状況は重篤で、数日の意識不明のあと亡くなりました。
綾子さんはショックのあまり取り乱し、なにもかも手を付けられなくなってしまいました。そのため、急遽上京してきた綾子さんの両親、そして隣県在住の健人さんの両親が、葬儀の手続き等を粛々と進めました。