(※写真はイメージです/PIXTA)

どのような立派な経歴のある医師よりも、老人ホームの近くに居住し、いざという時は、夜間だろうとなんだろうと、ホームに飛んできてくれる医師が、老人ホームの医師としては一番有益です。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で、良い老人ホームの選び方を明らかにします。

老人ホームの医療は脆弱で、盤石ではない

老人ホームの多くのケースでは、救急車がホームに来た後、受け入れ先病院を探し、受け入れが決まるまでに数時間を要するなど、珍しいことではありません。私も何度も経験しましたが、救急隊、介護職員とで手分けをして、病院に電話をかけまくり、受け入れ先病院を探すということは、半ば老人ホームでは当たり前の光景です。

 

その昔、100歳の入居者の夜間帯での急変対応をした時には、救急隊と手分けして病院に電話をかけまくり、3時間ぐらいかかって、やっと受け入れ先病院を探すことができました。運よく、手遅れにならずに済みましたが……。

 

その時に言われた断わり文句は「100歳の高齢者はうちでは対応できません」とか、「認知症の高齢者の受け入れはできません」とかというものでした。もちろん、多くの病院では宿直の医師しかいないことも多く、当然専門外の医師が宿直をしていることもあると思います。「専門は皮膚科です」というような場合、なかなか受け入れることに前向きにはなりません。なにしろ、何かあったら批判されるのは病院ですから。

 

しかし、当時の私は、本当に困っている高齢の病人に対し、受け入れない、という言葉を当たり前に言える病院とは、いったい何のための病院なのか? 誰のための病院なのか? と病院に対し怒りにも似た気持ちがあったことを思い出します。

 

最近、コロナの感染拡大で、コロナ患者の受け入れ先病院が決まらないとか、決まらずに自宅で亡くなってしまったとかという報道を耳にしますが、私のイメージでは、高齢者、特に認知症の高齢者は、昔から搬送先を探すのにひと苦労していたと思います。

 

だから、老人ホームの協力医療機関は、事前に地域の病院に根回しを行い、受け入れる約束を取り付けることで、老人ホームに対する自分の医療機関の優位性をアピールし、老人ホームの仕事を獲得することを目指しています。これは、医師の医療スキルの話ではなく、たんに営業の話です。しかし、老人ホームの介護職員としては、心強い話であることに変わりはありません。

 

だから、私は老人ホームの医療に対する重要性に関し、原則、期待はしていないし、必ずしも重要だとは思っていません。

 

しかし、どうしても医療に対する信仰心が強く、「医療=安心」というのであれば、協力医療機関の医師がホームの近くに住んでいて、すぐに駆けつけてくれるかどうかが一番重要だと考えています。まずはここを確認するべきです。そして、すぐに駆けつけてくれる医師がついている老人ホームは、たとえ、24時間看護師配置がなくても、医療対応は優すぐれているという理解でよいと思います。

 

余談ですが、以前、私が医療のことを習った医師は、ホームの中に住んでいました。別のところに家を持っていましたが、複数の居室を自室に改装し、そこに住んでいました。かなり変わった医師で、日ごろの扱いには相当苦労をしましたが、入居者の命は自分が守るという気持ちが強く、それこそ24時間365日、ホームにいるため、入居者も介護職員も看護師も安心して仕事をすることができていました。

 

医師としての腕の有無は、もちろん私には知る由よしもありません。しかし、高齢の入居者にとっては、少なくとも安心できる大きな存在であったことは事実です。多くの入居者が、その医師に看取られて自分が死んでいくことを望んでいたのですから。

 

老人ホームの医療は正直、脆弱です。盤石ではありません。また、老人ホームに医療を求めること自体、私は違うような気がしています。介護は医療の下請けでも、親戚でもありません。まったくの別物です。人の生活を支えるための日常ですから、医療のような非日常の世界とは親和性は少ないと私は感じています。

 

しかし、多くの高齢者やその家族は、医療に対する信仰心が強いのもまた事実です。したがって、老人ホームに対し、過度に医療に対する期待をする気持ちもわかります。

 

私が本稿で言いたいことは、現実を理解するということ。そして冷静になって考えるということです。その中で、どうしても譲れないというのであれば、医療があればとにかく安心できるというのであれば、医療に依存すればよいと思います。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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