(※写真はイメージです/PIXTA)

日本は100年以上の業歴を有する老舗企業が3万社を超え、世界に類を見ない「企業長寿大国」です。戦争、大震災、大不況…歴史上稀にみる深刻な経済危機に見舞われてもびくともしなかった老舗にはワケがあります。ジャーナリストの清丸惠三郎氏がレポートします。

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「会社の寿命は30年」という説は本当か?

■成長、成熟、衰退のライフサイクル

 

日本は100年以上の業歴を有する老舗企業が3万3000社を超え、世界に類を見ない「企業長寿大国」である。老舗企業を継続的に調査している信用調査会社帝国データバンクの、2019年の資料にある言葉だ。

 

一方で、「会社の寿命は30年」という言葉もよく経営者の口にのぼる。

 

これは1984年に日本経済新聞社から出版された単行本『会社の寿命』に記された数字で、同書によれば、1896(明治29)年以降の約90年間にわたる大企業上位100社の栄枯盛衰を、いくつかの数字で分析、算出したもので、「企業が成長段階から、成熟、そして衰退期に入るライフサイクル」として、会社の寿命30年は妥当かつ合理的な数字だと強調している。

 

現実に、同じく信用調査会社大手の東京商工リサーチの「2018年〈業歴30年以上の『老舗』企業倒産〉調査」を見ると「18年の倒産企業の平均寿命は23.9年」とある。会社の寿命は30年よりはるかに短いのだ。市場の変化、技術の革新、国際的な競争力の盛衰など、経営環境の変化を乗り越え、100年以上生き残るのは、相当に困難があることは間違いない。

 

中小企業家同友会の会員にも100年企業は少なくないとされるが、それらの企業はいかにして現在まで生き延び、激動の今日に立ち向かっているのだろうか。そして同友会活動の輪が、100年企業が200年企業に、200年企業が300年企業にと、時代ニーズに果敢に向き合い生き残っていくために有効に機能しているのか、以下検証していきたい。

 

三重県津市一身田は、国宝御影堂などが威容を誇る真宗高田派本山専修寺の所在地として知られる。この専修寺を囲む寺内町で創業し、今も一身田の地で醤油、調味液たれ類を製造するのが下津醤油である。

 

下津家がこの地で醤油製造業をスタートさせたのは、幕末の1856(安政3)年。以来、160年余の歴史をこの地で刻む。ただし前史があり、高田派中興の祖・真慧上人が教線の拡大を目指して下野(現在の栃木県)からこの地に専修寺を移したときに先祖も随行、当初は袈裟や法衣を商い、その後薬製造業に転じたのだそうである。

 

いずれにしろ専修寺の一身田移転が応仁の乱の2年前の1465(寛正6)年であり、下津家は当寺領の確保のために四十数年早く来津しており、この地での家史は600年近くに達することになる。

 

業態転換を繰り返した前史は省略して、戦後の下津醤油の話へ飛ぶことにする。現会長の下津和文氏は大学を卒業後、大手石油会社に勤めるエリート会社員だったが、先々代社長の泰蔵氏の婿養子となり、1975年に後継社長の座に就いている。しかし収益は最悪で、工場は老朽化しており、和文氏は経営立て直しに奔走することになる。

 

「大手スーパーなどに入り込む力はなく、目を付けたのは地元や愛知県の総菜やつくだ煮などの食品メーカーへの調味液の販売。この取引が始まったことで収益も好転。一方で、化学調味料を用いない調味液の開発依頼もくるようになり、これが醤油に代わる当社の柱に育ってきました」

 

温厚で、いかにも忍耐強そうな風貌の和文氏はそう振り返る。婿養子として、伝統ある家業をつぶすわけにいかず、必死に努力したことを窺わせる。

 

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    ※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

    小さな会社の「最強経営」

    小さな会社の「最強経営」

    清丸 惠三郎

    プレジデント社

    4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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