(※画像はイメージです/PIXTA)

相続の現場で、しばしば取り上げられる「子のない夫婦」の問題。夫婦で築いた資産が、配偶者の親族に流れることを危惧するケースがある一方、資産家の配偶者が先祖代々承継してきた財産の大半が、血縁のない配偶者に渡ることを警戒するケースもあります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

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先祖代々の財産も、子がなければ「血縁の外」に流出

相続の現場でもたびたび問題になるのが「子のいない夫婦」の問題です。子どもがおらず相続が発生すると、①配偶者と親、②配偶者ときょうだい(ごきょうだいに亡くなっている方がいれば、甥姪)、という順番に相続人になっていきます。

 

①の配偶者と親が相続人になるケースでは、配偶者3分の2、親が3分の1という割合で相続を受けることになります。②の配偶者と兄弟が相続人になるケースだと、配偶者が4分の3、兄弟が4分の1という割合で相続を受けることになります。

 

さて、これのなにが問題になるのでしょうか?

 

たとえば、先祖代々の土地を相続して、アパート経営をしているような場面を想像してみてください。親戚としても「**家の土地」という認識を持ち、実家やその近くのアパートなども「子どものころ、近場で遊んだな~」などと、懐かしく思っていました。

 

しかし、相続したきょうだいが亡くなってしまい、その配偶者に先祖代々の土地が相続されてしまうと、とくに親が亡くなっている上記②のケースでは、4分の3もの先祖代々の土地が、配偶者の××家の名義になってしまう、という事態があり得るのですね。

 

田んぼや畑などを先祖代々受け継いできた家の親族としては、かなり違和感のある結論になってしまうのではないでしょうか。これが、「家制度」が廃止され、「法定相続制度」という現状の制度の実際です。

養子、遺言書…先祖代々の財産を同姓親族に残す方法

配偶者側に財産が渡るのを防ぐには、「養子」をとるか、「遺言書」を遺すかのどちらかです。お子さんがいらっしゃらないご夫婦で、先祖代々の土地などを所有している方は、これらのことを想定して、「養子」をとっているケースも多いかと思います。

 

養子といっても、テレビドラマのように子どものころから離れ離れで育てるようなことはなく、高校・大学・社会人など、子どもが成長し、分別がついたところで、事情を話し、「名字が変わるけども、叔父さんの家に養子にいかないか?」というように調整することが多いといえます。「養子」という制度は誤解されがちですが、「養子」に入ったからといって、法的に原則として元の親御さんとの関係性は切れません。

 

今回の例でいえば、実の親の子どもであり、叔父の子どもであるという二重の立場を取得することになります。「養子」と聞くと、生き別れの親子のような場面をイメージしてしまうかもしれませんが、相続の場面では、財産移転のために、法技術的に用いられている印象があります。実際に、筆者の周りでも、相続の関係で名字が変わったという話はしばしばお聞きします。

 

他方、「養子」制度を利用しないのであれば、「遺言書」で調整するほかありません。もちろん、残された配偶者の方のためにも、老後の生活資金等は残す必要があるかと思いますが、先祖代々の土地を嫁入りや婿入りしたとはいえ、もともと別の家に大部分が相続されることに、違和感がある方も多数いらっしゃるのではないかと思います。

 

そうであれば、「遺言書」を遺しておき、預貯金等や住んでいる家は、配偶者の方に相続してもらい、先祖代々の土地については、きょうだい・甥姪に渡すという内容のほうが、トラブルを避けられるということもあると考えます。

いずれ地主は「解体されていく」運命か

相続税制度や、法定相続制度という現状の制度をそのまま適用をされていくと、地主は解体されていく方向に流れるのではないかと思います。それはそれで、「家」ではなく個人主義の考えが定着した現代では、むしろ自然な流れかもしれません。

 

ただ、ひと昔前(20~30年)であれば、すでに現状とほぼ同様の制度だったのですが、社会的な感覚として「家の跡取りに譲る」という考えが強く、揉めずにきていたのではないかと思います。

 

他方、近年では、法的な意識も高まり、また個人主義の考え方も強くなった一方で、まだ「家・跡取り」という考えを強くもつ方もおり、そのために、考え方の違いから、相続トラブルが発生しているのではないかと思います。

 

いわば、「家制度」から「個人主義」へと法律や制度は変化しましたが、社会の感覚が、ちょうど過渡期を迎えているからこそ、トラブルが多発しているといえると思います。

 

このような相続トラブルを発生させないためには、「先祖代々の土地」を受け継ぐような方は、自発的に行動していかなければ、残された配偶者・親族に、財産ではなく、災いの種を遺すことになるかもしれません。

 

「なにも考えずに気楽に隠居したい」という思いもわかりますが、近年の相続トラブルを見ていると、無責任にではなく、遺された方のことを思いやって相続対策に励んでいただきたいなと、切に思うのです。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

 

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