写真提供:BATTIRI DESIGN G.K.

人々の健康維持と住宅の断熱性・気密性には、密接な関係があることがわかってきました。住まいるサポート株式会社代表取締役・高橋彰氏が、この分野の第一人者、近畿大学建築学部長の岩前篤教授にインタビューします。

「暖かい室内」がもたらす好影響とは?

高橋:ほかに、高断熱住宅では、アレルギー・喘息の症状が出にくくなる要因として考えられることはありますか?

 

岩前:高断熱の住まいの暮らしは暖かいので、明らかに着衣量が減ります。そのため、衣服による皮膚への刺激が減少することから、皮膚の炎症を起こす要因が減るのではないかとも考えられます。このことは、当時これらの調査と結果を相談していた皮膚科の医療専門家も同意されていました。つまり、衣服が物理ストレスになり得ている可能性が認められたことになります。

 

これらの推察が正しければ、冬の寒さは厚着で対処し、不足分は暖を採って対応する、という従来からいわれてきた(とされる)我が国の対応方法が不適切であり、人の健康性まで考慮していなかったことになります。

 

そういった意味では、私たちのご先祖様達は実際、どのように冬の寒さを克服してきたのでしょうか。多少本気で調べると面白いことがたくさん出てきました。

 

たとえば、衣服のもとになる綿が繊維として国内で一般的に流通を始めるのは、江戸時代中期以降、ほぼ幕末の頃であったようで、それ以前は麻が主であったと柳田邦男が「木綿以前の事」で書いています。ご存じの通り、麻は爽やかですが、繊維は固く、暖かさは余り感じません。夏には向いていたのでしょうが、冬の防寒の役目は心許ないものがあります。

 

結局、江戸時代までは囲炉裏で火を焚き、その周辺でごろ寝をするか、一部の地域では残されていますが、棺桶のような木製の箱に木屑や藁などを敷き詰め、そのなかで寝て、冬の寒さを乗り越えていたものと考えられます。

 

一般の人々が厚着と布団でしのごうとしたのは明治以降であり、そんなに長い歴史ではなかったようです。逆に、綿布団が普及して火を焚くのを止め、ますます低温の暮らしが助長されたともいえます。より良い暮らしを考える際に、個々の原体験がベースになるのは当然ですが、新しいものを受け入れず、限られた体験に余り拘り過ぎるのはいかがなものか、と思うようになりました。

 

少し話が逸れましたが、高断熱住宅ではアレルギーや喘息などの諸症状が出にくくなっていたことは事実だと思います。とはいえ、このような症状でお悩みの方々が高断熱住宅に住まいを変えて、必ず緩和されるとはお約束することはできません。統計的に、その傾向が高いことは事実であるとだけ申し上げています。

 

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